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南米予選で見えた、出場枠増による「W杯の変質」 強豪国から緊張感が消え、弱小国のラフプレーが増えた (3ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【スーパーマーケット化するW杯】

 南米の選手は熱い。やられたらやり返したくなる。こうして試合の質は落ちていく。弱小チームのラフプレーの問題は、他の大陸での予選でもきっと問題になるはずだし、本大会においても大きな課題となるだろう。実力がないのにW杯に出るチームが増えれば、当然、危険なプレーが増える。世界的なビッグネームは、削られることを恐れながらピッチに立つことになるだろう。

 32カ国制はバランスがとれ、理想的だった。だからこそ30年近くずっとこの体制が続いていた。しかしFIFAがそのバランスを崩してまで出場国数を増やした最大の理由は金儲けだろう。そのためにはビッグチームやスター選手を取りこぼさないことが重要だった。

 たとえばイタリアはFIFAにとって大きなマーケットだが、2大会連続でW杯出場を逃してしまった。これはイタリアだけではなく、FIFAにとっても実は痛手だったのだ。だが、今回はまず出場を逃すこともないだろう(あったらそれこそ大問題だ)。また、世界的スターでありながら、代表チームが弱いためW杯と無縁だった選手たち、ノルウェーのアーリング・ブラウト・ハーランドやエジプトのモハメド・サラーも、ケガをしない限りはまず出場できるだろう。

 それ自体はいいことだが、やはりあの緊張感、祈るような気持ちでボールの行方を見守ることは、予選では確実に少なくなるはずだ。FIFAはサッカーのエモーショナルを売り渡してしまった。48カ国に拡大されたデメリットは、メリットよりもずっと大きい。

 W杯が人気なのは、世界のトップレベルが集まる大会だからだ。サッカーの神髄のプレーを見られるからだ。最も重要で、華麗で、楽しい大会。高級ブティックのように、選び抜かれた最高の品質の商品だけが並ぶ大会。それが今は、安価に何でも揃うスーパーマーケットのようになろうとしている。W杯自身の価値が下がってきてしまっている。

 ブラジルは22回のW杯すべてに出ている唯一の国であることが誇りだった。しかし、誰もがW杯に出られるようになれば、それも価値が無くなってしまうだろう。私たちが知っているW杯が今、終わろうとしている。

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