マンチェスター・シティをCL初制覇に導いた17本のパス 「らしさ」貫いた攻撃的サッカーの勝利

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by AP/AFLO

 チャンピオンズリーグ(CL)決勝。マンチェスター・シティにとっては下馬評との戦いでもあった。1.5倍対4.5倍。ブックメーカー各社が設定したこの3倍程度の差は、両軍選手の耳には当然入っている。

 こう言っては何だが、クラブサッカー人気より、代表サッカー中心の日本では実感しにくい感覚である。相手が強敵でも、メディアは高揚しがちな国単位のナショナリズムに便乗し、「勝てる、可能性はある」と煽る。躊躇なく応援報道に走る。それが欧州では起こりにくい。都市対抗戦であるクラブサッカーの場合はなおさらである。

 ましてやCLという、マンチェスター・シティ、インテル以外のファンも目を凝らす欧州サッカー最大のイベントだ。今回の決勝を視聴した人は、世界の200以上の国と地域に及んだと言われるが、そうしたいわゆる第三者も、両軍の1.5倍対4.5倍の関係を把握したうえで観戦していただろう。

 決勝戦はしかも、180分の戦いではない。90分1本勝負だ。時間は準決勝までの半分になる。さらに言うなら、サッカーは結果に及ぼす運の割合が3割を占めるとされるスポーツだ。精神的にキツいのは、絶対的に負けられない立場に追い込まれやすい、勝って当然とされる側だ。

 マンチェスター・シティは、欧州サッカー史にあってはまだCLを1度も制したことがない新興チームであるにもかかわらず、予想どおり、そうした強者特有の症状に悩まされることになった。

 攻撃的なマンチェスター・シティ対守備的なインテルというスタイルの違いも輪をかけた。マンチェスター・シティが試合を優勢に進めても、それはある意味で当然のことで、インテルにとって不利な材料にならなかった。前半は0-0。後半も半ばまで0-0で推移したが、これはインテルのペースに他ならなかった。

 だが、マンチェスター・シティは焦れずに"らしさ"を貫いた。根競べで負けなかった。

 後半22分、中盤でイルカイ・ギュンドアンが中盤でボールを拾うと、そこからマンチェスター・シティは相手陣内でパスをつないだ。その数12本。ジャック・グリーリッシュがフィル・フォーデンに送った13本目の浮き球のパスは、マルセロ・ブロゾビッチに頭で遮られたが、それをギュンドアンが再び拾うと、さらにマンチェスター・シティはパスを4本つないだ。計16本のパスは時間にするとおよそ70秒間に及んだ。

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