「あいつにはパスをするな」と言われたFWヴィニシウスは、どうやって「レアルの至宝」になることができたのか (3ページ目)
【転機となった昨季の監督交代】
それでも、自身への批判が強まるなか、ヴィニシウスはただひたすらトレーニングに打ち込んだという。
2020−21シーズンのチャンピオンズリーグのリバプール戦で2ゴールを決めてマン・オブ・ザ・マッチに選出された際、「少年時代から憧れたレアル・マドリードで活躍することが夢だったから、このエンブレムにキスをする。そのために、僕はたくさんトレーニングをしているんだ」とコメントしていたが、今振り返れば、それは現在のヴィニシウスの原点がどこにあるのかを示すエピソードだと言える。
そんなヴィニシウスに転機がおとずれたのは、カルロ・アンチェロッティ監督が就任した昨シーズンのこと。ジダン監督時代から続けた厳しいシュート練習の成果とも言えるが、やはり百戦錬磨の名将は、いかに若い才能を開花させるかという手腕にも長けていた。
アラベスとの開幕戦でゴールを決めたヴィニシウスは、続く第2節のレバンテ戦でも2ゴール。好機で外しまくっていた頃には想像できなかったようなテクニカルなゴールを決めて見せたことで、いよいよ覚醒の時を迎えたのだった。
終わってみれば、チャンピオンズリーグの4ゴールも含めて公式戦22ゴールを量産。とりわけ際立っていたのが、17を記録したアシスト本数だった。気づけば、かつて相手にしてもらえなかったベンゼマとの"盤石のホットライン"が完成していた。
迎えた今シーズンも、ここまでリーグ戦で10ゴール、チャンピオンズリーグでも7ゴールを量産するほか、アシストも計14(リーグ戦9、チャンピオンズリーグ5)を記録。昨シーズン以上に、アタッキングサードでの正確なプレーと落ち着きを際立たせている。
連覇を狙うレアル・マドリードにとって、FWアーリング・ハーランドをいかに封じるかが勝利のカギであるように、おそらく5月17日に予定される第2戦では、マンチェスター・シティにとってヴィニシウスをどのようにして抑え込むかが、決勝に勝ち上がるためのポイントになるはずだ。
そういう意味でも、第2戦もヴィニシウスの一挙手一投足を見逃せない。
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著者プロフィール
中山 淳 (なかやま・あつし)
1970年生まれ、山梨県出身。月刊「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部勤務、同誌編集長を経て独立。スポーツ関連の出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行なうほか、サッカーおよびスポーツメディアに執筆。サッカー中継の解説、サッカー関連番組にも出演する。近著『Jリーグを使ってみませんか? 地域に笑顔を増やす驚きの活動例』(ベースボール・マガジン社)
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