三笘薫がベンチに下がる姿に「主役の風格」 独善性ゼロ、最高級の決勝点アシストプレーを解析する
三笘薫が所属するプレミアリーグ8位のブライトンが、チャンピオンシップで現在17位に沈んでいるストークの挑戦を受ける格好になったFAカップ5回戦。観衆の目を釘付けにするような三笘薫のスーパーゴールで番狂わせを演じた4回戦のリバプール戦と、ブライトンは180度異なる立ち位置になった。
好チームの名をほしいままにしつつあるロベルト・デツェルビ監督率いるブライトンには、格上相手のほうがやりやすい。"絶対に負けられない戦い"となるこちらの一戦のほうがプレッシャーはかかる。しかもホーム&アウェーではない敵地での一発勝負だ。番狂わせが起きやすい設定のなかで行なわれた。
その一方で、ある程度メンバーを落とし、省エネモードで戦わなければならない試合でもある。ペルビス・エストゥピニャン、ダニー・ウェルベック、ソリー・マーチなど何人かの主力を、監督がスタメンから外したのは当然の判断になる。しかし、三笘はそのなかに加えてもらえなかった。左ウイングとして最初からピッチに立つことになった。
その結果、三笘はブライトンを1-0という最少スコアの勝利に導く活躍を演じた。
タッチライン際で自慢のドリブルを何度も披露したわけではない。だが、この日の三笘は、マーカーであるストークの右SBデュジョン・スターリングを見事なまでに翻弄した。
ストーク戦で決勝ゴールをアシストした三笘薫(ブライトン)この記事に関連する写真を見る ハイライトは前半30分だった。相手のパスをプレスバックで奪い返した後の8本目のパスだった。ブライトンの左CBルイス・ダンクが、4バックを形成するストークの右SBスターリングと右CBアクセル・ツアンゼベの間に送ったスルーパスである。
その外側からマーカーであるスターリングの逆を取るように最終ラインの背後に侵入した三笘には、瞬間、いくつかの選択肢があった。飛び出してきたGKをかわしてシュートに持ち込もうとしてもよし、外に逃げて攻撃を作り直してもよし、真ん中に詰めた18歳の若手FWエバン・ファーガソンにラストパスを送ってもよかった。
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著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。