三笘薫がベンチに下がる姿に「主役の風格」 独善性ゼロ、最高級の決勝点アシストプレーを解析する (2ページ目)
【リスクの高いプレーを選択した】
サッカー選手にとって一番ほしいのは得点だ。三笘はウインガーではあるがアタッカーである。センタリングでアシストを狙うばかりでは、名前は残らない。4回戦のリバプール戦がその証拠だ。それを機に三笘自身が評価の高まりを実感していたとすれば、欲に駆られゴールを狙いにいきたくなるものだ。実際、少々エゴイスティックなプレーをしても許されていたはずだ。そうすべきだという声のほうが多数派かもしれない。
だが、三笘はパスを選択した。日本人気質に富むプレーに出た。失敗すれば、エゴイストになりきれない日本人にありがちなミスとなる。その結果、大きな魚を逃すことになる。プロ選手としての出世を考えると、三笘はリスクの高いプレーのほうを選択した。
秀逸だったのは身のこなしだ。背後から送られてくるスルーパスのボールスピードと、マーカーであるスターリングの動き、さらには相手GKの飛び出しという3つの要素が、三笘の次なる動きに影響を与えていた。難問と言えば難問である。頭は冴えても身体が動かなければ問題はクリアできないが、瞬間的な三笘の動きはまるで猫のようだった。俊敏でありながら無理が利いていた。あえて言えば、変態的だった。逆を取るフェイントも利いていた。シュートを放ちそうな体勢から、身体を丸くかがませ、マイナス気味の折り返しに持っていった。
それがドンピシャのタイミングで、走り込んだ18歳のCFの鼻先に送られた。決めた選手は確かに偉いが、三笘のプレーの難易度を10とすれば、せいぜい2か3だ。ファーガソンは喜びを爆発させたが、凄さを感じたのは贔屓目抜きに三笘だった。点数にすれば100点満点。FAカップ5回戦ながら、瞬間的な偏差値が70超の設問に対しての100点である。
もっとも三笘はこの得点シーンの間、ボールにわずか1度しか触れていない。この決勝アシストはまさに最高級のワンタッチパスだったのだ。
独善性ゼロ。「柔よく剛を制す」を好む日本人の心を掴んで離さない、お洒落で繊細、かつ痛快でクレバーなプレーであったことも確かである。
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