元サッカー日本代表・岩本輝雄のカタールW杯の歩き方。各国サポーターとの交流や地元クラブの練習見学、砂漠ツアーと試合以外でも大忙し (5ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko

【日本は各ポジションで足りない能力がそれぞれ見えた】

――そんななかで、どちらの試合も後半にひっくり返しました。

 前田大然や伊東純也とか速い選手を揃えてシステム的にはまる形を作れれば、ドイツやスペインみたいな本当の強豪相手でも前からのプレスで行けちゃうんだと。でも90分は行けない。だから森保采配が見事だったのは、相手に対して的確に人と立ち位置を変えられて、行くべき時間帯を見極められたところですね。

――森保監督の采配は世界でも絶賛されていましたね。

 スペイン戦でジョルディ・アルバとアンス・ファティが出てきた時に、冨安健洋を投入した場面はとくにすごかったですね。フレッシュな選手に、こちらもフレッシュな選手を当てて、伊東純也を逆サイドに置いた采配はしびれました。

 それから吉田、板倉滉、冨安、谷口彰悟の最終ラインの高さと強さもすばらしかったです。ドイツ戦の終盤は、4年前のベルギー戦を思い出しながら見ていたんですけど、あの時は高さでやられました。でも今回はまったくやられる気がしなかった。この強さは今までにはなかったものだと思います。

 スペイン戦後、谷口に「フロンターレで同じシステムでやっているから、スペインのやり方はわかっていたんじゃない?」と聞いたら「まったくそのとおりで、スペインのほうが強度は高いけど、どう入ってくるかがわかっていたので全然慌てることはなかったです」と言っていました。

――そういった守備からチャンスを作って、前の選手がよく決めてくれました。

 そうですね。忘れてはいけないのが、今大会のチームには決定力があったということ。数少ないチャンスをことごとく決めてドイツとスペインを破ってみせたし、クロアチア戦でもあともう1点決まっていれば......。そう思っちゃいますよね。

――結果的にベスト16敗退でしたが、あともうひとつ進むためにはなにが必要だと思いますか?

 今大会は堅守速攻で結果を残しましたが、ここからもう一歩進むためには、やはり個のさらなるレベルアップが必要だと思います。三笘のドリブルや伊東のスピードが際立っていましたけど、各ポジションで足りない能力がそれぞれ見えたと思うんですよ。

 そこをまた4年間でどれだけ積み上げられるか。また、育成でそこをどう落とし込んで次の世代へつなげていけるか。それができれば、ベスト8を超えることは不可能ではないし、そのチャンスは近い将来またある。そう感じさせてくれたカタールW杯だったと思います。

岩本輝雄 
いわもと・てるお/1972年5月2日生まれ。神奈川県横浜市出身。横浜商大高校から1991年にフジタ(湘南ベルマーレの前身)へ入り、ベルマーレ平塚で1994年からJリーグでプレー。同年に日本代表にも選出された。左足の強烈かつ多彩なキックを武器に、以降、京都パープルサンガ(現京都サンガF.C)、川崎フロンターレ、ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)、ベガルタ仙台、名古屋グランパスでプレー。2006年にオークランドシティ(ニュージーランド)でFIFAクラブワールドカップをプレーし引退。名古屋退団後からタレント活動を行ない、現在はサッカースクールやコメンテーターも務めている。

5 / 5

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る