心を開いたメッシと真剣に成功したい若い世代の結束。アルゼンチン人記者が明かすW杯優勝秘話

  • セルヒオ・レビンスキー●文 text by Sergio Levinsky
  • 井川洋一●翻訳 translation by Igawa Yoichi

メッシとアルゼンチンのW杯優勝 前編

後編「メッシはマラドーナを超えたのか」>>

リオネル・メッシがついにワールドカップを獲った。これまでなかなか手が届かなかった世界一にたどり着けた理由は何か。代表チームをつぶさに取材してきたアルゼンチン人記者が、優勝秘話を明かす。

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W杯優勝を決めたあと、メッシも感情を爆発させた photo byJMPAW杯優勝を決めたあと、メッシも感情を爆発させた photo byJMPAこの記事に関連する写真を見る

【家族のような雰囲気を楽しめたメッシ】

 リオネル・メッシの目が違った。これまでのW杯やほかの大会の時とは異なり、カタールでの彼の眼光は鋭く、固い決意と大きな野心が感じられた。

 35歳になって迎えた5度目のW杯。いいこともそうでないことも、さまざまな経験を経て成熟したスーパースターは、そんな集中した表情を見せる一方、おそらく最後のひのき舞台にリラックスして臨んでもいた。

 「なによりも、まずは楽しみ、その後に勝利がついてくる」──。それはアルゼンチン代表のリオネル・スカローニ監督とも共有する考えだ。指揮官はフランスとの決勝の前に、こう話していた。

「なにはともあれ、これもただのフットボールの試合だ。それは忘れないように。楽しめなければ、意味はないのだから」

 メッシは過去のW杯で苦しむことが多かった。若い頃はフアン・パブロ・ソリンやフアン・セバスティアン・ベロンといった重鎮の存在が大きく、内気なメッシの意見はほとんど聞き入れられなかった。

 主将の腕章を巻くようになってからは、途轍もない重圧に晒された。2018年ロシアW杯のラウンド16でフランスに敗れたあとは、代表からの引退も示唆。耐え難いほどのプレッシャーを感じていたのだ。

 だが酸いも甘いも噛み分けた今のメッシは、内奥に熱を宿しながらも、自然と力を抜くこともできる。それに今のアルビセレステ(アルゼンチン代表の愛称。白と水色の意)では、彼のことを慕う年下のタレントたちに囲まれ、家族のような雰囲気を楽しめているのだ。

 背番号7を背負ったハードワーカー、ロドリゴ・デ・パウルは初対面の時から得意の冗談を用いて、人見知りなメッシに近づき、今ではチームでもっとも親しい友人のひとりになった。

「レオは水が飲みたい時も、声に出して言うことは少ない」とデ・パウルは言う。「でも水のボトルを見ているから、周りの仲間がすぐにそれに気づいて手渡すんだ」

 デ・パウルとレアンドロ・パレデス、そして負傷により今大会に参加できなかったジオバニ・ロ・チェルソは、メッシの部屋で一緒にマテ茶を啜るほどの仲になった。メッシがそこまで心を開くのは、珍しいことだ。

 おそらくそれは、若い世代も真剣に成功したいと望んでいることを知ったからでもあるだろう。アルゼンチンがW杯を最後に制したのは1986年(1978年大会に続く2度目)。メッシが代表から退くまでにその回数を3にしなければ、次はいつになるかわからない。

「アルゼンチンのためにW杯で優勝したい」とパレデスは開幕前に話した。「なによりも、メッシのために優勝したいんだ」

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