フランス、どこよりも正統的な攻撃サッカーで決勝へ。日本代表は「美しい敗者」モロッコを目指せ (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by JMPA

【猛攻にも慌てなかったフランス】

 1990年イタリアW杯、ミラノのジュゼッペ・メアッツァで行なわれた開幕戦で、カメルーンがアルゼンチンを破ったとき、これからはアフリカの時代が到来すると言われた。しかし、アフリカの時代は到来しなかった。これまでの最高成績は、カメルーンが1990年イタリアW杯、セネガルが2002年日韓共催W杯、そしてガーナが2010年南アフリカW杯で残したベスト8だった。

 モロッコはその壁を崩し、アフリカ勢として最高の成績を収めたことになる。しかしかつてアフリカと言えば、カメルーンであり、セネガル、ナイジェリア、ガーナ、コートジボワールだった。アラビア語を話す北アフリカ勢は、「アフリカの時代が到来する」のアフリカに含まれていなかった。

 だがモロッコの選手に目を凝らせば、ハキム・ツィェク(チェルシー)、ヌサイル・マズラウィ(バイエルン)、アクラフ・ハキミ(パリ・サンジェルマン)など、欧州の上位クラブで活躍している選手が目立つ。サッカーそのものに目を凝らしても、いわゆるアフリカ勢に不足しがちな要素(ひと言でいうのは難しいが、ずる賢さ)を備えている。強かった頃のトルコにも通じる、半分、欧州的な匂いもする。

 一方、相手のフランスは、いろんな匂いがする。エムバペの母親は北アフリカのアルジェリア系だ。中部アフリカの臭いもあれば、西部アフリカの臭いもする。フランス本国と同じくらいアフリカの匂いがする。

 そうした背景を持つフランスとモロッコが、カタールという無国籍色の強い国で行なわれたW杯の準決勝を戦う図も、独特の味わいがあった。

 いろんな血が混じったフランスは、その分だけバランスが取れているように見える。対応の幅が広い。懐の広いサッカーに見えた。モロッコがアクション激しく果敢に攻め入れば、少々慌てたプレーを見せ、パニックに陥っても不思議はない。それがフランスにはないのだ。エムバペという特別な選手の存在も見逃せないが、バランス論で言うならば、各選手のポジショニング、布陣にも穴がない。オーソドックスな攻撃的サッカーを、どの国より大きな展開力を持って遂行する。

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