17年前、アフリカのレジェンドは予言していた。モロッコが堅牢な守備と闘志でカタールW杯を席巻中 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Reuters/AFLO

【積み上げてきた守備の堅さ】

 グループリーグはクロアチア、ベルギー、カナダと戦い、失点はわずか1だった(意外にもカナダから失点)。守備の充実は明白で、決勝トーナメントでは、スペイン戦でスコアレスドローからPK戦で勝利した。

 この日も、スター軍団ポルトガルが与えようとするダメージを最小限にしていた。4-1-4-1のフォーメーションで、ギャップに入った敵をすり潰す。ほとんどスペースを与えず、失点を許さない。そして前半42分、左からのクロスに対し、ポルトガルのGKがフラフラと出てディフェンスと交錯したところ、セビージャ所属のユセフ・エンネシリが高い打点のヘディングを叩き込んだ。

 後半は圧倒的に攻められる形になった。しかし、少しも慌てていない。終盤、クリスティアーノ・ロナウドを投入して総攻撃に出たポルトガルの圧力は相当なものだったが、リトリートして守りきり、わずかな隙を見つけると、チェルシーのハキム・ツィェクが鋭いカウンターを浴びせた。

 かつてのイタリアのカテナチオを彷彿とさせる"耐えて反撃する"メンタリティは、時間をかけて身につけたものだろう。ナイベトの時代から、守備の堅さを積み上げてきた。やられそうになりながらも、粘り強く対応し続ける。その成熟が、1-0の勝利につながった。

「スペインでは、『モロッコに負けるなんて悪夢だ』と思った人が多いだろう。しかし、我々に勝つのは簡単ではないんだ」

 モロッコを率いるワリド・レグラギ監督はポルトガルに勝利後、スペイン人記者の質問に胸を張った。

「我々はまずスペースを与えなかった。テクニックのある選手は擁していたので、いつだって勝負も決められる構えでいた。その意味では、戦術的に高いレベルにあったし、士気も高く挑むことができていた。そしてすばらしいファンと運にも恵まれていたと思う」

 ほとんどホームのような観客席を味方につけ、モロッコは最後まで闘志を見せた。その戦いは、スペインではディエゴ・シメオネ監督のアトレティコ・マドリードと比較された。闘争心で堅守カウンター戦術を運用する点はとても近い。

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