17年前、アフリカのレジェンドは予言していた。モロッコが堅牢な守備と闘志でカタールW杯を席巻中
「10年後、あるいはもっと先かもしれないが、モロッコのサッカーは欧州を席巻するだろう」
今から17年前のインタビューで、当時はモロッコ代表の中心で「アフリカ史上最高のディフェンダー」と称賛を浴びていたヌールディン・ナイベトが"予言"していた。
「アフリカのなかで、モロッコは組織的なサッカーができるし、俺のようにいいディフェンダーが出てくる。派手な攻めだけでなく、守りのメンタリティがあるのさ。ボールを蹴ることが好きで、負けず嫌い。サッカー選手として、海を越えて活躍したい野心も強い。(カサブランカ郊外にある)コルニッシュというビーチに行ってみるといい。そこに答えはあるはずだから」
ルポの一環で、コルニッシュ海岸へ実際に行ってみた。そこには信じられない光景が広がっていた。見渡す限り、1キロ以上は続くビーチを、サッカーボールを蹴る人たちが埋め尽くしていた。裸足でボールを蹴り、上着や帽子をゴールに見立て、その奪い合いに必死だった。思いのほか球際での勝負にこだわっていた。波打ち際で激しく飛沫を上げ、沈みゆく陽光を浴びる彼らの姿は眩しかった。
多くの国で消えつつあるストリートやビーチでの自由闊達なサッカーが残っていた。海の向こう側はイベリア半島だった。欧州の玄関口だ。
現在のコルニシェの状況はわからない。しかし、当時の子供たちが大人になっているとすれば――。ナイベトの予言は当たっていたことになる。
12月10日、アル・サマーマ・スタジアム。カタールW杯準々決勝で、モロッコは決勝トーナメント1回戦のスペインに続いて、ポルトガルを1-0と撃破した。アフリカ勢としては史上初のW杯ベスト4進出だ。
ポルトガルを破り、アフリカ勢で初めてW杯ベスト4に進出したモロッコの選手たちこの記事に関連する写真を見る 特筆すべきは、守りの堅牢さだろう。まずは個人が持ち場を守ることができる。1対1で、勝てないまでも、負けない。
GKのヤシン・ボノはリーガ・エスパニョーラのセビージャに所属し、昨シーズンはサモラ賞(最小失点の最優秀GK賞)を受賞した実力者である。バックラインでは、右サイドバックのアクラフ・ハキミがパリ・サンジェルマンでプレーし、相手の強力なエースを封じ、攻撃に出るパワーがある。そしてアンカーのソフィアン・アムラバトはフィオレンティーナ所属、バックラインの前の門番のように中央の守りを固める。
1 / 3