メッシとフェデラーに共通する能力。アスリートには年齢を重ねたからこそできることがある (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 もちろん、今の中年の天才たちが質の高いプレーをできるのは、医療やダイエット、危険なタックルの禁止などによって体が守られるようになってきたためだ。往年のスター選手が同じ環境にいたら、どうだったろう? ワールドカップの歴史はずいぶん変わっていたかもしれない。

 1974年大会にペレが出場していたら、ブラジルはどんな成績を収めただろうか。ペレは当時33歳で、今なら代表でプレーしていてもまったくおかしくない年齢だった。ヨハン・クライフは1978年大会に出場しなかったが、その時まだ31歳だった。家族を誘拐するという脅迫を受けたため代表入りを辞退して自宅にこもっていたという話もあるが、選手としてはすでに下り坂だった。クライフを欠いていても、オランダは決勝の延長で惜しくも敗れるというところまでいった。

 1990年大会でディエゴ・マラドーナは体調が万全ではなかったのに、アルゼンチンを決勝まで導いた。当時、29歳。1994年大会でもまだ33歳だったから、禁止薬物を使っていなくてもすばらしいプレーができた年齢だ。ブラジルのFWロナウドは2006年大会に出場した時に29歳だったが、とても太っていて選手としては終わりが見えていた。

 これらの選手たちの「知覚」は、気がつけば消え去っていた。カリム・ベンゼマの世代に、そんなことは起こらない。
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【著者プロフィール】 サイモン・クーパー ジャーナリスト。1969年、ウガンダ生まれ、オランダ育ち。英『フィナンシャルタイムズ』紙でコラムニストを務めるほか、各国メディアに執筆している。主な著書に『サッカーの敵』『ナノ・フットボールの時代』『「ジャパン」はなぜ負けるのか 経済学が解明するサッカーの不条理』(共著)など。

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