メッシが置かれた代表での新しい立場。その姿はイタリアW杯のマラドーナと重なった (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by JMPA

若いチームメイトを励ますように

 それは今のアルゼンチンでも大きくは変わっていない。

 しかし現体制では、むしろ「浮いた存在」であることを生かす構造になっている。トップ下とMFの間のフリーマンと言うのだろうか。現在所属するパリ・サンジェルマンでもそうで、「メッシ・シフト」と言える。かつてのように荒ぶるゴールマシンではないが、下がってボールを受け、ゲームを作りながら一発のパスでゴールをこじ開け、押し込んで相手にスキが出たら自身の左足を振る。

 メキシコ戦も、メッシはそうしてアルゼンチンを救った。

 その姿は、イタリアW杯のディエゴ・マラドーナとどこか重なる。

 当時のマラドーナは、キャリアのなかで下降線に入ったところだった。開幕戦で格下のカメルーンに黒星。一気に暗雲が漂ったが、彼は最後の力を振り絞る。神がかったプレーで得点を演出した。マラドーナの獅子奮迅に応えるように、セルヒオ・ゴイコチェア、クラウディオ・カニーヒアなどのスターも誕生。凡庸だったチームを活性化させ、見事に決勝まで進んだ。

 メキシコ戦のメッシのスーパーゴールは、スタジアムで熱狂を起こした。それはスタンドにいてさえ、胸を打つものがあった。ピッチでメッシが作った熱を全身に受けた選手たちは感激し、本来以上の力を引き出されたのだろう。終了間際、交代出場のエンソ・フェルナンデスはCKから思いきって右足を振って、ファーサイドにすばらしいゴールを叩き込んだ。

 歴代のアルゼンチン代表選手と比べると、能力は高いものの突き抜けたところがないチームメイトたちを、メッシは励ますようなプレーで覚醒させている。それはまさに、イタリアW杯でのマラドーナと同じである。

「つまらない」

 当時のアルゼンチンは酷評を受けたが、ひとりで雄々しくチームを勝利に導くマラドーナの姿は感動的ですらあった。

「(初戦で負けたことについては)多くの選手が初めてのW杯だから。言い訳するつもりじゃなくてね。試合でいい入りができなかったのは事実で、2点目を早く決めていれば局面は変わったし、今日はそれができたということさ」

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