カタールW杯を前に各国代表の主力選手にもケガ人が続出。ヴィニシウス「心の疲れは目に見えない」 (2ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

ヴィニシウスも恐れる精神的疲労

 今シーズンの日程はすべてがイレギュラーだ。W杯を戦う多くの代表選手はヨーロッパのリーグでプレーしているが、W杯がこの時期に行なわれるため、彼らはリーグ戦の途中でカタールに行かなければならない。だからといってリーグの試合数が減るわけではない。この時期に1カ月の中断を入れるため、各国リーグは通常より早く始まった。これは昨シーズンと今シーズンの間隔が短かったことを意味する。選手は体を休める時間も、体を作る時間も例年に比べて少なかったのだ。

 中断されるのはリーグ戦だけではなく国内やヨーロッパのカップ戦もしかり。だからこれらも通常より高い頻度で試合が行なわれる。また同時に、W杯に向けて代表での親善試合、ヨーロッパの選手ならネーションズリーグも戦わなくてはいけない。この夏から、選手たちはとんでもない過密スケジュールのなかでプレーしているのだ。

 中断されたW杯南米予選のブラジル対アルゼンチンの試合は、公式戦であるにもかかわらず、ついに再試合が行なわれなかった。それをねじ込む余裕が日程になかったからだ。

「カタールW杯の日程には無理がある」とはずっと言われてきたことだが、ここにきてそれはケガ人の増加という最悪の形で証明されてしまっている。
 
 カタールW杯は32チーム制になって史上一番短い29日間で行なわれる。各国のリーグ戦もギリギリまで続けられたため、選手たちはクラブの試合が終わったらすぐに代表の合宿に入らなくてはいけない。夏開催の場合はW杯に向けての準備は約1カ月だが、今回はほとんどのチームは10日程度だ。ケガをしている選手にとっては治す時間がないということだ。
 
 選手はクラブでも代表でもベストを尽くさなくてはいけない。肉体的疲労度はもとより、精神的な疲労度も大きい。レアル・マドリードのブラジル代表、ヴィニシウス・ジュニオールはこう言っている。

「体の疲れは見えるけれど、心の疲れは目に見えない。だからこそ怖いんだ」

 最近のクラブチームではスタッフに心理カウンセラーを置くところが増えているが、精神的疲労もケガの大きな一因となる。

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