「ありきたりな言葉は指導においてぜい肉でしかない」。廣山望が考える未来のサッカー日本代表の育て方 (2ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • photo by AFLO

育成年代の指導は加点方式の考え方

――留学から帰国して、JFAアカデミー福島・男子U-15のコーチに就任されますが、就任当初を振り返るとどんなスタートでしたか?

 土台はスペインで作りましたが、指導者としての自分を実質的に形作ったのはアカデミーでの指導がすべてだと思います。

 指導者として大事なのは、指導の質を上げることだと思うんですね。知識はどこでも誰でも増やせると思うんです。そこから自分の指導の質を上げるには、実際に指導して、言葉や範囲を精査して、贅肉を削ぎ落として、本当に質がよいものにする。そして、そうしていく分、選手が主体性を持ってやる時間を増やす。

 この繰り返しのなかで、どれだけ無駄なものを捨てられるか。ありきたりな言葉というのは、指導においてぜい肉でしかないわけで、本当に必要なタイミングで、必要なものをあげるのが一番大事だと思います。そうした繰り返しを引退してすぐにアカデミーでできたのは、とても大きなスタートだったと思います。

――留学で見てきたスペインと、実際に指導したアカデミーの子どもたちのトレーニングで、サッカーに対する姿勢に違いを感じることはありましたか?

 ものすごく大雑把に言うと、アメリカやスペインの育成年代は基本的に加点方式で、日本の場合は学校の評価なども含めて減点方式なんです。どちらがいい、悪いではないけれど、ひょっとしたらサッカー選手にとっては、前者のほうが大事な試合で活躍しようと思ったらポジティブに働く可能性がある。

 子どもたちの質の違いというより、我々指導者の考え方として、非常に大雑把ですけど、加点方式の考え方がベースであってほしい。アカデミーだけでなく、どこの指導でもベースとして持っていたいと思っています。

 それがベースにあると、結果的にアメリカの子どもたちは、一つ質問するとわかっていなくても手を挙げて発言するんですね。間違ってもいいから自分の考えを発表したいという、あの純粋な子どもたちのエネルギーは、生まれ持ったものなのか、それまでの成長過程でそうなったのか、それとも指導者の働きかけでそうなったのか。

 やっぱり考えを持っていること自体を褒めてもらえる、考えを発表することで褒めてもらえる社会で育ってきているので、そこが大きな違いだと思うんですね。サッカー選手であったらそうあってほしいと思いますし、指導者としては見逃してはいけない大事なポイントなのかなと思います。

――アカデミーでの指導は、加点方式を意識されているのでしょうか?

 そうですね。もちろん、減点ではないですけど、直さなければいけないところはしっかり直す必要があります。選手を伸ばす部分では、加点されているなかで本人の自主性が出てこないとなかなかうまくいかないし、自分が思っている以上のものを引き出せないと思うので、そこは意識しています。

――減点方式に慣れている子どもたちが、加点方式で指導されていくことで変化は感じましたか?

 サッカーに夢中になるとか、自分がサッカーをうまくなりたい、自分が勝ちたいというのを選手がしっかりと持てるようになっていると思います。それがなかったら目標設定をしてもなかなか伸びないし、逆にそれがあって中学生や高校生は伸びていくものです。

 指導者としてはどうやってそうしたものを持たせてあげられるか、あるいはあと少しのところでそういう状態になれるのであれば、どう刺激してあげられるかだと思います。

2 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る