「たった一つのゴールで人生が変わる」。廣山望は海外5カ国でプレー「価値観がひっくり返った」数々の経験 (3ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • photo by AFLO

たった一つのゴールで人生が変わる

――セロ・ポルテーニョでは1シーズンだけでしたが、廣山さんは日本人で初めてコパ・リベルタドーレスに出場されました。まだまだ日本人には馴染みが薄い大会だと思いますが、どんな印象が残っていますか?

 報道の量や注目度は、現地にいるととてつもない大会でしたね。試合数も多くて、僕はケガも少なかったので、連続でいろんな国へ行けて楽しかったです。ものすごい熱狂のなかで、絶対に負けてはいけない、勝たなければいけない、なんとか相手を難しい状況に追い込まなければいけない。そうした価値観が、Jリーグの環境とは全く違いました。

 よく言いますけど、ボールボーイからなかなかボールが出てこないとか、ボールボーイをベンチに呼んでお菓子をあげて周りにボールボーイが誰もいないとか(笑)。しょうもないことですけど、それだけなにをしてでも勝ちにこだわるという、南米のちょっと異常なテンションを生で経験できたのは面白かったですね。

――南米のサポーターの熱狂度はやはり殺気立ったものがありました?

 そこにすべてを求めて来るお客さんなので、リンゴとかなにかモノを投げてきて、それが選手の頭に当たって切れて試合が中断したことがよくありました。ちょっと度を越していると思いますけど、選手の経験値としては大きなものでしたね。

 今のU-16日本代表でも「なにが起きても左右されない」というテーマで取り組んで、アジア予選を4連勝できました。やはりいろんな経験をしているほど、なにが起きても左右されにくくなると思うんですけど、コパは本当にいろんなことが起こり得る大会でした。

――廣山さんはコパ・リベルタドーレスで2得点していますが、それだけのビッグトーナメントで点を決めると、評価や報道はほかとは違うものでした?

 それはもう極端に全然違いますね。新聞の一面が全部自分みたいな感じになって、一気にパラグアイ国民が僕のことを知ってくれました。もちろん、日本人という面白さもあったと思いますけど、一夜にして変わりましたね。「サッカー選手って結果一つでこんなにも変わるんだ」と、やったことに対して正当に評価してくれる感覚がありました。

 日本ではなかなかないと思うんですけど、向こうでは大げさではなく、たった一つのゴールで人生が変わることは珍しくない。活躍した試合の次の週には移籍していなくなるというのが、目の前で起きていました。

 結果を出してタイミングさえ合えば、一気に世界が広がる、変わる。余計なことに気を使わずそこだけに集中すればいい、とはそういうことですよね。その意味でコパでの得点とか、大きい大会は、選手として本当にいい経験でした。

――南米の選手の貪欲さは、そういった背景が要因の一つとしてあるわけですよね。

 活躍すれば文句なし。それは若手にとっては自信があればトライするし、本当に夢がある世界だと思います。ピッチの上で全員が平等で、ピッチ外では不平等だからこそ、そのコントラストがサッカー選手として楽しいというか。憧れたり、ギラギラできる理由なんだろうと思います。

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