メッシなど「偽9番」は名選手の系譜。実は古いその歴史と機能するカラクリを解説 (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 クライフ監督は3トップの両翼を高く張らせている。ウイングに合わせて相手のサイドバック(SB)はそこに固定される。そうなると中央の相手CBは、SBの位置以上に前に行くことはない。

 これで4バックをピン止めしておいて、CFが下がる。相手CBは深追いできないので、相手のディフェンスラインの手前に数的優位ができる。これでCFが前向きにプレーできる状態ができあがるわけだ。

 相手CBの1人が前に出てきた場合は、ウイングやMFが、相手CB1人になった中央を急襲し、相手SBが絞れば空いたサイドを突く。ウイングを使ったピン止めがポイントで、CBのミゲル・アンヘル・ナダルを右ウイングに置いたことさえあった。

 現役時代のクライフは主に左のハーフスペースに引いてパスを受け、フィニッシュへつなげていく、あるいは左に開いてウイングになるプレースタイルが得意だった。ロマーリオが加入するまで主に偽9番を務めたミカエル・ラウドルップは、ラストパスとドリブルの名手というところがクライフとよく似ている。

 ただ、クライフやラウドルップは得点を量産していない。偽9番という戦術自体が、他の選手に得点させるためのものなのだ。得点数で言えばペデルネラよりラブルナ、ヒデクチよりプスカシュであり、チャンス創出の増大と得点者分散化のシステムと言える。

<多才な9番のパターン>

 偽9番はゼロトップとも呼ばれるが、厳密に言えば少し違う。

 ゼロトップというシステムはほとんどない。CFはいるけれども、典型的な9番とは異なるタイプなのでゼロトップと呼ばれるだけだ。本当にCFの位置に選手がいないケースは、1982年スペインW杯でのフランスぐらいだろう。

 この時のフランスは4-4-2システムだった。2トップはドミニク・ロシュトーとディディエ・シス。ところが、この2人はストライカーというより典型的なウイングプレーヤーでどちらも外に開いていたため、前線中央に人がいない状態になっていた。

 空いている中央を使うのは、もっぱらMFのミッシェル・プラティニとアラン・ジレス。中盤は「四銃士」のプラティニ、ジレス、ジャン・ティガナ、ベルナール・ジャンジニで、構成は流動的ながらプラティニとジレスが前、ティガナとジャンギニが後方。前方の2人はプレーメーカーであるとともにチーム内で最も得点力に優れ、言わばダブル10番システムだった。

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