ベッカムからデ・ブライネまで「クロッサー」のスゴ技。ゴールへの重要手段、質の高いクロスの条件とは? (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 少年時代にボビー・チャールトンのサッカー教室で満点評価を与えられたベッカムは、止める、運ぶ、蹴るといった基礎技術が高かった。やがて、かつてチャールトンがプレーしたマンチェスター・ユナイテッドでデビューして、注目を集める。

 ベッカムのデビューにひと役買ったのがエリック・カントナ(フランス)だった。カントナは練習後に若手にクロスを蹴らせて、シュートする個人練習をよくやっていた。のちにベッカムは「練習で金がとれるレベルだった」と回想している。

 カントナのヘディングやボレーの技術は一級品だったが、それとは別のことに注目していた人物が、監督室の窓から練習を眺めていたアレックス・ファーガソンである。ファーガソン監督は、クロスボールの出し手(ベッカム)の技術の高さに驚いて1軍に抜擢したという。

 ベッカムは4-4-2の右サイドハーフとして地位を確立する。かつてのウイングのようなドリブル突破はあまりやらず、DFに寄せられる前にクロスを蹴ってゴール前の味方にピタリと合わせる。90分間に14キロも走る運動量、正確な技術とインテリジェンスを備えた逸材だが、華麗なクロスボール以外はけっこう地味なハードワーカーだった。

 ベッカムより少し前だが、アンドレアス・ブレーメもクロッサーとして名高い。1990年イタリアW杯決勝では、試合を決めるPKを成功させた西ドイツ(当時)の左ウイングバックだ。

 左足の高速高精度のクロスを得意としていたが、優勝を決めたアルゼンチンとの決勝戦のPKは右足で蹴っている。実は右利きなのだ。左足のクロスの印象が強すぎて、右利きとは全く気づかなかったファンも多かったに違いない。

<デ・ブライネの職人芸>

 現代も高質のクロスボールは重要な得点源だ。しかし、かつてのクロッサー・タイプはあまり見られなくなっている。

 あえて現代のクロッサーを探すなら、ケビン・デ・ブライネ(ベルギー)が第一人者だと思う。だが、デ・ブライネのクロスは、ベッカム、ブレーメ、あるいはロベルト・カルロス(ブラジル)、ガイスカ・メンディエタ(スペイン)といった、かつてのクロッサーとは少し違っている。

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