もはや「サイド」でも「バック」でもないサイドバック。マンCのカンセロに代表される最先端の姿 (3ページ目)
フォクツも元MFだが、ブライトナーは攻撃センスが図抜けていて、フィールドのどこへでも進出する自由人でもあった。いちおう相手のFWをマークしてはいるが、攻撃になると糸の切れた凧のよう。それで得点もアシストもするのだから、止める理由がなかったのだろう。
1980年代に活躍したブラジルのジュニオールも、ブライトナー型の天然ものだ。こちらも元MF、というより本職がそっち。82年スペインW杯のブラジルは中盤の「黄金の4人」が有名だが、実質的にはジュニオールを加えた黄金の5人だった。
ブライトナーとジュニオールは、その破格さでカンセロの祖先と言える。ただ、天然の偽サイドバックはこの2人ぐらいで、1980年代からFWが2トップ全盛になったことでサイドバックへの戦術的な役割が変化していく。
FWが2人になり、従来のウイングがいなくなった。そこでサイドバックがサイドアタックの担い手とされた。
3バックが流行するとサイドハーフすらいなくなり、サイドバックはウイングバックとして大外レーンを、ほぼ1人でカバーしなければならない事態になってしまう。生身の人間にそんなことができるかと思ったものだが、カフーとロベルト・カルロスというバケモノを両翼に揃えたブラジルが2002年日韓W杯で優勝する。
運動量がとんでもないことになってしまったサイドバックだが、まだこの段階では縦方向の上下動だった。そこに横方向の動きを加えたのがグアルディオラ監督で、バルセロナでダニエウ・アウベス(ブラジル)、バイエルンでダビド・アラバ(オーストリア)を魔改造してしまう。
サイドバックはすでに「バック」ではなくなっていたが、まだ「サイド」ではあった。だが、ここに至ってついに「サイド」でも「バック」でもなくなったわけだ。
かつてのブライトナーやジュニオールは突然変異だったが、カンセロなど現代のサイドバックは戦術に組み込まれているのが大きな違いだ。
それが偽サイドバックか元サイドバックか、偽ボランチか偽インサイドハーフか、偽ウイングなのかはわからない。だが、自由奔放に見えて秩序にきちんと組み込まれている様態は、これが正解で、いろいろあったサイドバックも、これでよかったんじゃないかと思えてくる。
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