ロナウジーニョよりベッカム。歴代「ノールックパス」の使い手No.1
異能がサッカーを面白くする(9)~ノールックパス編
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パスは「相手をよく見て出すもの」だと教えられた。初心者か否かの分かれ目とも言える。見ないで蹴るのは素人。ヘタな選手の代名詞だった。日本代表級の選手ともなれば、「相手を見ないキック」を用いる機会は、ピンチから逃れる際に用いるクリアがせいぜいで、頻繁には拝めないプレーになっていた。
1992年当時でも、だ。時の日本代表監督ハンス・オフトは、就任するや「アイコンタクト」を強調。日本代表史上初の外国人監督は、サッカー初心者に向けるような基本的なアドバイスを、選手たちに口酸っぱく送った。オランダ人監督の目には、日本代表級の選手がそれほどヘタに見えるのかと、複雑な気持ちに襲われた記憶がある。
その後、日本人選手のパス技術は目に見えて上達していったが、そうこうしていると、世界には、逆に相手を見ずにパスを出す、変わった選手が現れた。
マンチェスター・ユナイテッドやイングランド代表の右サイドハーフで活躍したデビッド・ベッカム ノールックパス。バルセロナに在籍したロナウジーニョの代名詞とも呼べるプレーだ。実際は見ずに出すというより、わざと首を反対方向に捻る「あっち向いてホイ」的なトリッキーなジェスチャーが入っていて、それ自体にフェイント効果があった。
クリスティアーノ・ロナウドも、2009-10シーズンにレアル・マドリードに移籍した頃から、ノールックパスを好んで使うようになった。もともとアクションが派手なロナウドが用いると、スタンドに大きなどよめきが走るのだった。
バルサ入りしたネイマールも、ノールックパスをたまに使ったが、両選手の傍らでプレーしたリオネル・メッシは使用しない。少なくとも、筆者は見た記憶がない。この4人は、バロンドール級のスーパースターという点では一致するが、ノールックパスに有無に関しては、メッシとそれ以外に分類される。この違いは何を意味するのか。
いずれにしても、余裕というか、遊び心が不可欠な高度なプレーだ。世界的に見ても、実際に試合で使える選手はそう多くいない。日本で唯一の使える選手と言っていい小野伸二が貴重に見える理由でもある。
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