ふだんは無視。メディアが女子サッカー選手に注目するのはどんな時か (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 ひとつめは1999年のワールドカップ決勝。アメリカのブランディ・チャステインはPK戦で優勝を決めるゴールをあげると、喜びのあまりユニフォームを脱いでしまった。スポーツブラ姿の彼女の写真が世界中をかけめぐった。チャステインは退屈な女子サッカー選手から、昔ながらの「セクシー」な女の子に格上げされたのだ。

 その10年後、アメリカの大学の試合である選手が逆のことをやった。エリザベス・ランバートは相手選手を蹴り、顔を殴り、ポニーテールをつかんでピッチになぎ倒した。彼女は社会が女性に禁じている領域に足を踏み入れ、そのシーンはテレビカメラにとらえられていた。僕がYouTubeで見たビデオのヒット数は290万件を超えている。新しい社会のルールの下で、女性がサッカーをすることは許されるようになったが、女性による暴力は今も絶対的なタブーだ。

 少しずつだが、一部の女子選手はちょっとしたセレブになりつつある。マテル社は、ドイツのスター選手ビルギット・プリンツのバービー人形を製作した(とてもかわいらしい人形で、女子サッカーが「女らしさ」のステレオタイプを壊していないことがわかる)。

 6月26日のワールドカップ開幕戦で、ドイツがカナダと戦うベルリンのオリンピア・シュタディオンは満員になるはずだ。しかし女子のクラブの試合が7万人の観衆を集めるようになるのは、「男らしさ」「女らしさ」への僕たちの見方がもう少し変わってからだろう。

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