2021.03.04

度肝を抜いた超絶ボレー。クライフ、ジダン、李忠成らが決めた歴史的瞬間

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

異能がサッカーを面白くする(7)~ボレーの達人編

 ダイナミックなアクション。方向性が読めない意外性。弾けるような衝撃音。決まった瞬間の華々しさ。ボレーシュートには観衆を惹きつける圧倒的な魅力がある。
 
 筆者の観戦史の中で、一番と言いたくなるボレーシュートは、いまから33年前、ミュンヘン五輪スタジアムで目撃した一撃になる。1988年欧州選手権。現在で言うならばユーロ。西ドイツ大会の決勝オランダ対ソ連の後半9分だった。オランダのCFマルコ・ファン・バステンが突き刺した、右足で放ったボレーシュートである。

 左サイドからMFアーノルド・ミューレンが蹴り上げた左足クロスに、特段、高級感はなかった。次のプレーで得点が決まるとは、想像だにしなかった。ファーサイドのポストの、さらに奥に深々と飛んでいったボールを、ファン・バステンがダイレクトで振り抜く瞬間でさえ、ゴールの予感はしなかった。

 角度がないに等しい位置。そのうえゴール前に立ちはだかっているのは当時、世界ナンバー1と言われた名GKリナト・ダサエフだ。半ばヤケクソなボレーシュートに見えた。ところがボールは、名GKが差し出す両手の上を越えるやストンと落ち、ネットに吸い込まれた。魔術的と言いたくなるスーパーゴールを目の前に、あんぐり開いた口は塞がらなかった。

 ボレーシュートといえば、豪快なシュートを想像する。一か八か。当たるも八卦、当たらぬも八卦ではないが、ダメモトみたいな側面がある。特にこの場合はそうだった。いかにも確率が低そうなシュートに見えた。

 だが、188センチのファン・バステンが、長身を折るようにして操作した右足は、完全に自らの意のままに動いていた。テニスというより卓球のラケットを操作する手の動きに似ていた。ボールの上っ面を叩くドライブショット。ダサエフの手を越えた後、ストンとボールが落ちた理由だ。

 ネットにはトップスピンが効いたボールが、軽やかに心地よさそうに収まった。電光石火の一撃ではあったが、「行き先はボールに聞いてくれ」という言葉が似合わない、技術の粋が凝縮された、超高度なコントロールショットでもあったのだ。2002年のチャンピオンズリーグ決勝で炸裂したジネディーヌ・ジダン(レアル・マドリード)のボレーシュート2002年のチャンピオンズリーグ決勝で炸裂したジネディーヌ・ジダン(レアル・マドリード)のボレーシュート