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オシム監督の「考えて走る」の正体。格上をやっつける胸熱サッカー (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 逆に考えても同じだ。自陣でボールをキープしている。4バックでパスを回していて、守備側はFWひとりしかいないとしよう。ハーフウェイラインの手前は攻撃側4人(GKを含めれば5人)に対して、守備側ひとりの4対1だ。

 ここで攻撃側が相手陣内に縦パスを入れたとする。ボールを縦に入れない限り得点は取れないから、縦パスはよい選択のように思われるが、ハーフウェイラインの向こう側はフィールドプレーヤーだけでも6対9であり、3人も少ないエリアにボールを送り込んだことになるわけだ。

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 せめてふたり、できればそれ以上の相手をつり出してから縦へ入れたほうが受けた味方は楽になる。自陣で数的優位3人なら、敵陣は3人の不利なのだ。単純に算数の問題なのだが、それができない選手は実際にいる。

 オシム監督のトレーニングは「頭が疲れる」とよく言われたが、算数に慣れていない、あるいは意識していないから疲れたのだと思う。局面の算数がわかれば、全体もわかる。オシム式のトレーニングは「数」を明確に意識させるものが多かった。そこからリスクを割り出し、リスクを冒すか止めるかの判断をしていく。

 本能的にプレーする選手も好きだったようだが、オシム監督の指導は基本的に理詰めであり、ボールに集中しがちな選手にゲームのやり方を覚えさせるものだった。

<リスクを計算して冒す>

 初めてインタビューした際、最初の質問に20分間も回答された時は面食らったものだ。アジアカップのあとに話を聞いた時も、やはり最初に20分ぐらい一方的に話されてしまった。聞きたいことが聞けるのはそのあとで、オシム監督が話し疲れてからだった。

 ただ、最初の長い回答で、聞きたいことの答えはおおむね含まれていた。もう、こちらの質問などわかっているようだった。こちらの手の内は見透かされていたが、オシム監督の心の内は読みにくかった。言葉どおりには受け取れないのだ。というより、2つ3つの可能性を示唆するので、どれが本音なのか判別しにくかった。

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