2020.07.22

優勝請負人ではなく「幸福請負人」。名将ビエルサの魔法の正体を探る

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

サッカー名将列伝
第7回 マルセロ・ビエルサ

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革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回は、イングランド古豪リーズをプレミアリーグに昇格させ話題となっているマルセロ・ビエルサ監督。弱者を率いて強者を倒す。関わるクラブと街を幸せにするサッカーの真髄に迫る。

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<幸福請負人の監督>

 リーズ・ユナイテッドのプレミアリーグへの昇格が決まった。降格から17年、リーズの街はさぞ盛り上がっていることだろう。

リーズを指揮するビエルサ監督(写真右)。テクニカルエリアでしゃがむお馴染みのスタイルは健在 リーズは、プレミアリーグへ移行する以前は強豪クラブの1つだった。3回のリーグ優勝歴があり、1970年代にはビリー・ブレムナー、ピーター・ロリマー、アラン・クラークなどの名選手が活躍している。かつて栄華を誇っただけに、下部リーグからなかなか這い上がれないと焦燥感も強くなる。リーズのファンは情熱的なことでも知られている。

 消化不良の情熱がとぐろを巻き、どこよりも勝利を渇望している街は、まさにマルセロ・ビエルサにうってつけだった。

 1998年から2004年までアルゼンチン代表を率いた後のビエルサは、チリ代表監督を経て、アスレティック・ビルバオ(スペイン)、マルセイユ(フランス)、ラツィオ(イタリア/2日で辞任)、リール(フランス/シーズンが始まり間もない11月に解任)とクラブチームの監督を歴任している。

 ラツィオとリールはカウントしなくていいかもしれないが、ビルバオとマルセイユ、そして18年から指揮を執っているリーズは、環境がよく似ている。いずれもサッカー熱の非常に高い街で、かつて栄光を築いた名門。そして現状は燻(くすぶ)っている。

 だからこそ、ビエルサはそこへ行くのだと思う。

 金で動くタイプではない。タイトルを獲れそうなチームでもない。そもそも、ビエルサはいわゆる「優勝請負人」ではない。言ってみれば「幸福請負人」だ。勝利を渇望する人々に夢と希望を与え、クラブと街を活性化させる。枯れ木に花を咲かせてみせる。この分野では現在、並ぶ者のない監督だろう。