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優勝請負人ではなく「幸福請負人」。名将ビエルサの魔法の正体を探る (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 ビエルサ監督の率いるチームの特徴として、自分たちより強いチームに強いということがある。強い相手に怯まず、真っ向から勝負して、時にねじ伏せてみせる。もともと戦力的に劣っているはずなのに、とてもそうは思えないプレーぶりなので、まるで魔法をかけたみたいだ。

 ビルバオ時代は全盛期のバルセロナに引かずに戦って引き分け、相手の監督だったジョゼップ・グアルディオラを感動させた。マルセイユでは序盤に首位を突っ走った。

 ただ勝つのではなく、ファンが誇りに思えるような勝ち方をするのだ。

<魔法の戦術>

 ビエルサのマジックには理由がある。どのチームを率いても、そのメソッドはほぼ同じだ。まず、守備は基本的にマンツーマンである。

 マンツーマンは相手をつかえまえきった時点で、パスの出先にすべて強い圧力がかかる。もちろん1対1で外された時には一気に攻め込まれる危険もあるが、強い相手ほど自陣からパスをつなごうとするので、マンツーマンがハマれば相手陣でボールを奪い返すことができる。

 格上との実力差を詰める、またはなくしてしまうという点で、マンツーマンが効果的であることは、これまでビエルサが率いたチームで証明されている。

 もう1つは、攻撃面でのオートマティズム。パターンとは少し違っていて、さまざまな状況でどうプレーすべきか、どういう選択肢があるかをトレーニングで仕込んでいる。試合中の判断は選手に任せられているが、判断の質を一定水準まで引き上げていくのがビエルサ方式だ。

 マンマークでの厳しい守備、いっせいに数人が動き出すような攻撃。攻守の切り替えも速く、好調時には相手を巻き込んで分解してしまうような破壊力がある。中位ぐらいのチームを、一気にジャンプアップさせるのに向いているスタイルだろう。

<細分化されたトレーニング>

 ビエルサのトレーニングは有名だ。ビルバオを率いていた時に見に行ったことがある。地元ファンだけでなく、各国メディアやコーチも来ていて、社会学習で見学に来ていた地元の小学生たちの姿もあった。たぶん100人以上いたと思う。

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