2020.11.18

ベンゲルの告白。「私やファーガソンが
やっていた仕事はもうなくなった」

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】
アーセン・ベンゲルに聞く(3)
その(1)その(2)はこちら>>

 アーセナルにおけるベンゲルの輝きは、次第に薄れていった。パイオニアはいつもそうだが、他のクラブも統計や栄養学や移籍市場の動向に詳しくなったために、ベンゲルは特別な存在ではなくなったのだろうか。彼はちょっと不機嫌そうに笑って言った。

「この仕事は、勝ち負けだけで評価される。しかし私たちの場合は、財政的な問題もあった。新しいスタジアムを建設したことで、資金面は楽ではなかった」

 エミレーツ・スタジアムはベンゲルのレガシーのなかで、もっとも目に見えるものであり、アーセナルだけでなくロンドンにとっても大きな存在になった。このスタジアムは街の地図を書き換えた。

 エミレーツの収容人員は約6万人で、前の本拠地ハイバリーより2万2000人多い。アーセナルはエミレーツを最初から常に満員にし、ロンドンのフットボール史上で最高の観客動員数を誇っている。しかし建設費用の4億3000万ポンド(現在のレートで約590億円)の大半は借入金でまかなっており、ベンゲルの最後の10年間はその返済に追われた。

 一方、チェルシーのオーナーであるロマン・アブラモビッチのような石油王や、マンチェスター・シティを所有するアブダビの王族が、アーセナルのライバルクラブに金を注ぎ込みはじめた。ベンゲルにとっては、これが痛かった。実にフランス的な考え方だが、ベンゲルは金を使えばフットボールの試合に勝てる(「財政的ドーピング」と彼は呼んだ)というのはフェアではないと考えた。

昨年10月に来日、岡田武史元日本代表監督とイベントに出席したアーセン・ベンゲルphoto by Keizo Mori/AFLO アーセナルには最高の選手を獲得するだけの経済力がなくなった。おまけにベンゲルは、以前から倹約家として知られていた。

 今になって思えば、ベンゲルが描いていた大計画は成功しなかった。エミレーツ・スタジアムの借入金はほぼ完済したのに、アーセナルはトップの位置に返り咲いていない。その理由のひとつは、ライバルクラブもスタジアムを新築・拡張したことだ。