2020.11.17

ベンゲルの選手発掘術。選手が偉大になるかどうかがわかる年齢とは?

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】
アーセン・ベンゲルに聞く(2)
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 アーセナルの監督に就任したベンゲルは、まるで未来からの使者のように、イングランドの旧態依然としたフットボール界に降臨した。彼はヨーロッパのフットボールを形づくった偉大な「思想家」のひとりになった。ベーラ・グットマン、ヨハン・クライフ、アリゴ・サッキ、そして後にはジョゼップ・グアルディオラやユルゲン・クロップに連なる系譜に名を刻んだ。

 ベンゲルは栄養学を理解し、当時すでに選手を評価するために統計を使っていた。しかも、外国の移籍市場に精通していた。イタリアのトップクラブでベンチに追いやられていたパトリック・ビエラやティエリ・アンリを救い出し、ニコラ・アネルカやセスク・ファブレガスを10代のうちに発掘した。

1997-98シーズン、アーセナルで2冠を達成したアーセン・ベンゲルphoto by Reuters/AFLO ベンゲルは成人したフットボール選手をうまくするという、まれな才能を持っていた。彼はこう説明する。

「個々の選手の基本的な質を高めなくてはいけない。私たちは誰ひとりとして全能ではない。しかし卓越したクオリティーがひとつあれば、それによって金を稼ぎ、生きていける」

 ベンゲルは選手の得意な部分を見つけると、その点を伸ばすために何年もかけて手を差し伸べた。いつもうまくいくわけではなかった。アーセナルのトップチームで何度チャンスを与えても、ものにできなかった選手もいる。

 偉大な成功例の代表は、若き日のアンリだ。彼は、才能は感じられたが、何かが足りないウインガーだった。

 ベンゲルはアンリに「きみはストライカーだ」と言った。「監督、僕はゴールを決めることはできません」と、アンリは言った。後に彼は、アーセナルでのシーズン最多得点を記録した。

 ベンゲルはディフェンダーだったフランス人のエマニュエル・プティを、ワールドカップ優勝チームのミッドフィールダーとなる選手に育てた。酒好きなイギリス人の選手たちには、食事を変えれば30代に入っても十分にプレーできるし、自分では思いもしなかったようなスタイルを持った選手になれると説得した。