ジダンにはレアル向きの資質がある。強い個性をどうまとめているか

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

サッカー名将列伝
第21回 ジネディーヌ・ジダン

革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回はレアル・マドリードの監督を務めている、ジネディーヌ・ジダン。成功が難しいと言われる大スター軍団のレアルで、数々のタイトルを獲得しつづける理由を探る。

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レアル・マドリードで、すでに10個のタイトルを獲得しているジダン監督レアル・マドリードで、すでに10個のタイトルを獲得しているジダン監督<3つの特徴>

 レアル・マドリードのかつての広報部長(ホアキン・マロート)が、ジネディーヌ・ジダン監督の特徴として、次の3つを挙げたことがある。

・好戦的でない
・監督としての自分を押し出しすぎない
・人として真っすぐである

 もう1つ加えるなら、「怒らせるとヤバそう」だろうか。現役時代からフィールドを離れると静かで内気だった。若手のころからよく見ていた選手だが、「ハスキー犬みたいだな」と思っていた。

 澄んだ瞳が美しいけれども何を考えているのかよくわからず、オオカミと似ていてちょっと怖い。

 フィールド上ではいつもイラついていた印象がある。突然報復して退場になることも多かった。瞬間湯沸かし器という点では、フランス代表の後輩であるパトリック・ビエラもそうだったが、ビエラの場合は前兆があった。我を失っているのがはっきりわかる。ヤバそうだと思ったら、ベンチも交代させていたものだ。

 ところが、ジダンはまったくと言っていいほど前兆がない。あっ、と思ったらもう手遅れ。2006年ドイツワールドカップ決勝の時もそうだった(相手のマルコ・マテラッツィに頭突きをし、退場となった)。

 穏やかな雰囲気になったのは、現役を終えてからだ。フィールドのジダンは仮面を被っていて、いつも不機嫌に耐えているように見えた。フランス人であると同時にアルジェリア人であり、さらにベルベル人(北アフリカの広い地域で暮らす先住民族)という三重性が背景にあったかもしれない。心の奥に、誰も理解できず触れられない闇を抱えているような怖さがあった。

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