戦術がジャマだった銀河系軍団。レアルにデル・ボスケの凡人ぶりは必要だった

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

サッカー名将列伝
第15回 ビセンテ・デル・ボスケ

革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回は、スペインのビセンテ・デル・ボスケ。"銀河系"と呼ばれた2000年代頭のレアル・マドリードや、スペイン代表の2010年南アフリカW杯優勝時の監督として知られている。いい選手が揃っていたから勝てたとも言われるが、はたしてそうだったのか。あれだけのスター軍団が「長持ち」した背景に、この監督の存在がある。

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<抜群の戦績だが...>

 南に面して座っているだけで国が収まる。古代中国が理想とした皇帝の姿だそうだ。ビセンテ・デル・ボスケは、天子南面を思わせる監督だった。

レアル・マドリード、スペイン代表を勝たせつづけた、デル・ボスケ監督レアル・マドリード、スペイン代表を勝たせつづけた、デル・ボスケ監督 戦績は抜群だ。何度か監督解任後のケアテイカー(暫定監督) としてレアル・マドリードで短期間指揮を執ったあと、本格的に監督の座に就くや、4年間の在任中にUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝2回、リーガ・エスパニョーラ優勝2回、インターコンチネンタルカップ、UEFAスーパーカップ、スペインスーパーカップも獲った。

 スペイン代表監督としても、2010年南アフリカワールドカップで初優勝に導き、ユーロ2012も優勝。CLとW杯で優勝した監督は、マルチェロ・リッピ(イタリア)とデル・ボスケのふたりだけだ。

 ところが、そのわりには名将感がない。

 レアル・マドリードの監督の時は、"銀河系"と呼ばれたスター揃いのチームだった。ルイス・フィーゴ(ポルトガル)、ジネディーヌ・ジダン(フランス)、ロナウド(ブラジル)と、バロンドール受賞者を毎年補強しつづけていた時代である。選手が凄すぎるので、監督は誰でもいいんじゃないかぐらいに思われていた。

 スペイン代表も、ユーロ2008優勝チームを前任者のルイス・アラゴネスから引き継いでいる。こちらもシャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバ、フェルナンド・トーレスといった錚々(そうそう)たるメンバーが揃っていて、やはり監督の手腕のおかげで勝ったという印象はない。

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