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戦術がジャマだった銀河系軍団。レアルにデル・ボスケの凡人ぶりは必要だった (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

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 あの陣容で戦術的なチームなどつくりようがないし、それをやっても意味がなかった。高級マグロを煮て食うようなものだからだ。デル・ボスケのあと、ペレス会長が連れてきたたぶん戦術的なはずの監督5人が指揮を執った3年間は、惨憺たる結果に終わっている。

 次々に投下されるスーパースターを全部使って勝つことが、デル・ボスケに与えられた使命だった。ロナウド、ラウール、フィーゴ、ジダンにロベルト・カルロスも加えた5人に、プラスひとりかふたりが攻撃していくのだから、どうしたって攻撃過多になる。

 スターアタッカー全員を常に守らせるのは無理としても、ひとりやふたりは守備を手伝ってもらわないと、守備崩壊は必至だ。スターたちの背後でクロード・マケレレ(フランス)、イバン・エルゲラ(スペイン)が汗をかいていても、それではとうてい間に合わない。

 だから、デル・ボスケはいつもぎりぎりのバランスを見ていた。スーパースターの誰かが適宜に「マケレレ」になっているかどうか。ただ、仮に全員守備をさぼったところで、デル・ボスケには実際のところどうすることもできない。沈没していく船と共にあるだけだ。けれども、デル・ボスケはレアル・マドリードの良心で、いずれ沈没していくだろう豪華船の船長としての威厳は備えていた。

 デル・ボスケを失望させてはいけない。それは銀河系の終わりを意味する。現在、ジダン監督を本気で怒らせてはいけないのと同じである。

<偉大な凡人。静かな賢者>

 スペイン代表でもデル・ボスケ監督の立場はレアルの時と大差ない。バルセロナのメンバーを中心としたスターたちをまとめ、気持ちよくプレーさせ、しかし決して越えてはならない一線は、身を挺して守る役割だ。

 デル・ボスケはいつも淡々としていた。スター軍団を率いて勝ちまくっている時も奢りは微塵も見られず、黙々と仕事をこなしていた。ある意味、名将としてのカリスマ性がまったくない監督だった。

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