ジダン頭突き事件の舞台は、
ドイツの「負の遺産」をあえて残している (3ページ目)
◆「ドイツW杯、稲本潤一は我慢すべき一線を越えた」はこちら
ベルリン五輪シュタディオンは、しかしパッと見、改築されたスタジアムには見えない。改築前と後で、外見にほとんど変化はない。スタジアムを囲むように伸びる回廊は、まるで遺跡を歩いているような、神々しい威厳を保っている。
改築という選択は正解だと言いたくなる。石造りの外観が放つ威厳は半端ないのだ。しかし、この石は一度バラして補強し、配置やデザインそのままに再構築したのだという。スクラップ&ビルトの新築にしたほうが、簡単だった可能性があるが、ドイツはそうしなかった。ドイツ人のセンスのよさを感じる。負の遺産に目を背けず、より堅牢なものにリニューアルして後世に残した。パッと見で、それが簡単にわからないところに、さらなる価値を感じる。
違いが明白になるのは、スタジアムに入った瞬間だ。もともと「掘り下げ式」だったスタンドはさらに深く掘られ、その分がそのまま観客席増となった。
収容人数は7万4475人。その割にスタンドの嵩は低い。スタジアムは、外観を維持したまま巨大化した。スタジアムの外からは、せいぜい3万人程度のスタジアムにしか見えない。景観を損なうことなく建てられた、周囲と調和したスタジアムなのだ。
99年4月の取材ノートに、筆者はこう記している。近い将来、「このベルリン五輪シュタディオンでCL決勝を」。CLの権威を高める舞台になるはずだ、と。そうしたら、その翌年、ドイツが2006年W杯を開催することが決定した。ベルリンが決勝の舞台に選ばれた。
CL決勝の前に実現したW杯決勝。フランス対イタリア。ジネディーヌ・ジダンがマルコ・マテラッツィに頭突きを食らわして退場となった一戦である。
CL決勝の舞台になったのはその9年後。バルセロナが3-1でユベントスを下した2014-15シーズンのファイナルだ。ネイマール、ルイス・スアレス、リオネル・メッシの3人が前線に綺麗に並んだことと、大きな関係がある。
ポルトガルのリスボンで準々決勝以降を争った今季(2019-20)のCLは、バイエルンとPSGが決勝に進出した。バイエルンの優勝で幕を閉じたが、敗れたPSGも、サッカーのイメージが薄かったパリを、メジャーなサッカータウンに押し上げることができた。
しかもPSGを決勝で破った相手はバイエルンだ。首都ベルリンの、"置いてきぼり感"はいっそう露わになっている。ヘルタがCLに出場したのは結局、1999-00シーズンの1回のみ。ベルリンがサッカーと観光をセットで楽しめる、欧州で知られたサッカータウンになる日は訪れるのか。
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