失ってわかるスポーツの意味。試合がなくなりメンタルヘルスに影響も (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 オークリーによれば、観客席で騒いでいるファンは、抑制を捨てて「管理しうるレベルの狂気」にひたっている。たとえサポートしているチームが敗れても、他人と感情を共有する機会になる。

 同じチームのファンであることの魅力は、特に一部の男性にとっては、言葉さえ必要がない点だろう。サポートしているチームが同じだというだけで、わかり合えるものがある。

 スポーツには、どう考えても気が合いそうにない人たちを結びつける力さえある。冒頭に登場した作家のトンプソンは、1968年のアメリカ大統領選挙期間中のある夜、ニューハンプシャー州をリムジンで旅した。同行者は、トンプソンがもっともつき合いたくない人物である共和党大統領候補のリチャード・ニクソンで、ふたりは後部座席でずっとアメリカンフットボールの話をしていた。

「まったくイカれた旅だった」と、トンプソンはのちに書いている。

「俺の人生のなかでも、もっともイカれた行動に入るだろう。本当にイカれていた。なにしろニクソンも俺も楽しんでいたんだから」

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