スポーツが消えた今、欠けているもの。
W杯期間中に自殺が減る理由

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】
スポーツのない日常(後編)>>前編を読む

 新型コロナウイルスの感染爆発によって、世界中からスポーツが消えた今、僕たちが失ったのは、スポーツを楽しむ機会だけではない。僕らが生きるコミュニティーにおいて、そして人生において、大きなものを欠くことになりかねない。

個人練習中のリオネル・メッシ。多くの国でスポーツ再開の目途はたっていないphoto by AFLO個人練習中のリオネル・メッシ。多くの国でスポーツ再開の目途はたっていないphoto by AFLO 人々は、子ども時代から死に至るまで、自分のチームをサポートするという儀式によって安心を得る。「僕は自分の人生を、つねにアーセナルの試合とともに記憶してきた」と、ニック・ホーンビィは『フィーバー・ピッチ』(邦訳『ぼくのプレミア・ライフ』)に書いた。離婚、転居、老い、死──人生には多くの転機が待っているが、サポートしているチームはいつも一緒にいてくれる。

 スポーツがメンタルヘルスにプラスになることを示す統計もある。米フロリダ州立大学のトーマス・ジョイナー教授(心理学)は、アメリカで自殺者が減っている町では、地元のスポーツチームが優勝を争っており、アメリカンフットボールのスーパーボウルが開かれる日曜日には、全米で自殺者が減少していることを見出した。それは、人々が他人と一緒に試合を見ることでコミュニティーへの帰属意識を感じ、自分は独りではないと思えるためだろう。

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