ストイコビッチからジャカとシャキリまで。コソボ紛争をサッカーから理解する (5ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko
  • photo by Jiji Photo

 現在のコソボはアルバニアの民族主義が燃え盛り、民族共存どころか、セルビアやモンテネグロにまで領土を拡大しアルバニア本国との合併を主張する「大アルバニア」が勃興している。すべてはNATOの空爆が発火点だ。

 今年のロシアW杯、スイス対セルビアの試合でスイスのコソボ移民二世の選手、グラニト・ジャカとジェルダン・シャキリがそれぞれゴールを決めた後に両掌を胸の前で交差させて扇ぐジェスチャーをした。それはアルバニア国旗にある双頭の鷲を示す「大アルバニア主義」を表すもので当のコソボ代表が禁止しているポーズである。

 なぜスイス代表を選んだ選手が「大アルバニア」を主張するのか。FIFAは政治的な主張としてペナルティを科した。ジャカとシャキリは言うまでもなくすばらしい選手だ。紛争時はまだ6歳前後だった彼らがなぜ憎悪の中にまだ閉じ込められているのか。二世の選手がおそらくは教育の過程でがんじがらめにされているアルバニア民族主義にこそ注視しなくてはいけない。彼らを自由にしなくてはいけないのに、日本の報道ではむしろいさめるどころか、「あれはルーツに対する思い」「アイデンティティの発露」と言った論調ものが散見された。

 しかし、2人はセルビア戦以外ではあのポーズを取っていない。アイデンティティというよりも対立していた民族への挑発行為でしかない。悲しいのは、W杯であのような屈辱的な挑発をされたセルビア人選手の側に立った視点が皆無だったことだ。ストイコビッチの口惜しさがまた蘇る。「セルビア悪玉論」はまだ生き残っている。

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