リオ五輪を覆う暗い影。ドーピング問題が解決不可能なわけ

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】オリンピックの危機(3)

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参加が決定し、リオデジャネイロに到着したロシア選手団(photo by AP/AFLO)参加が決定し、リオデジャネイロに到着したロシア選手団(photo by AP/AFLO) オリンピックの勝者に対する私たちの純粋な称賛を、暗い影が覆い始めている。ドーピングだ。

 長いことオリンピックでは、ドーピング検査が行なわれなかった。その後始まった検査には効果がなかった。1980年のモスクワ大会では、陽性だった選手がひとりもいない。

 無邪気な時代が終わりを告げたのは1988年9月27日。ソウル大会の陸上男子100メートルで、ベン・ジョンソンが世界新記録で優勝しながらドーピング違反で失格となった日だ。オリンピックではありがちな物語に、きわめつきの要素が加わった。勝者は不正を働いていることが発覚する。ときには大会が終わって何年もたってから──。

 ドーピングがすぐに発覚することはほとんどない。政治学者のロジャー・ピルク・ジュニアはスポーツ界の不正について書いた新著『ジ・エッジ』に、学会誌『スポーツ医学』に発表された研究を引用している。ドーピングをやっている一流アスリートは、全体の14~39%に及ぶというものだ。「一方、世界反ドーピング機関(WADA)が同じ時期に行なった薬物検査では、検体の1~2%にしか禁止薬物が見つかっていない」と、ピルクは書いている。

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