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ケニア難民キャンプからオーストラリアに移住 J1新潟のトーマス・デンは「サッカーで人生が好転」した (3ページ目)

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi

【幸運にも人生を好転させることができた】

 駆け足で彼のそこまでを振り返ると、このようになる。だがきっとその道中には、私たちには想像できないほどの苦難があったはずだ。

「本当に難しいスポーツだからね」と、トーマス・デンはあくまで競技面の難しさを強調する。

「フットボールのキャリアは、ジェットコースターみたいなものだ。いい時があっても、次の瞬間にうまくいかなくなったりする。これ以上ないってくらい、落胆したこともあった。その時にどう振る舞うか、どう向き合うか。それが大事だと僕は思う」

 具体的には、どんなことがあったのだろうか。

「たとえば、ケガだ。僕は2021年から1年以上もの間、股関節の痛みに悩まされた。あの負傷の厄介なところは、CTやMRIなどで精密に検査しても、なかなか原因がわからないってこと。激痛があるのに、医者に施せることは何もないし、いつになったら復帰できるかもわからない。どうしていいかわからなくなったり、絶望に襲われそうになったりもしたな」

 それでもトーマス・デンは、大好きなこのスポーツを続けた。フットボールは彼の人生を切り開いたツールとも言えるが、そんなことよりも、自然な感情が彼をピッチに向かわせた。

「フットボールに対する愛があったから、続けられたんだと思う」と彼は続ける。「幸運にも、自分はこのスポーツによって、人生を好転させることができたし、居場所も見つけられた。チャンスは誰にでも訪れるんだ」。

 最後の言葉は、彼の口から発せられると響きがまったく違った。

 機会とは、強く望んだ人に訪れるもの──。そう話すトーマス・デンに日本行きのチャンスが到来したのは、今から4年ほど前のことだった。

中編「トーマス・デンが語るJリーグの魅力」へつづく>>

トーマス・デン 
Thomas Deng/1997年3月20日生まれ。ケニア・ナイロビ出身。幼少期にオーストラリアへ移住。メルボルン・ヴィクトリーのユースチームに加入し18歳でプロ契約。2015年にAリーグデビューを果たした。PSV(オランダ)でのプレーを挟んで、オーストラリアでは計4シーズンプレーし、2020年に浦和レッズに移籍。2シーズンプレーしたあと、2022年からはアルビレックス新潟に活躍の場を移してプレーしている。オーストラリア代表としても活躍していて、2021年東京オリンピック、2022年カタールワールドカップのメンバー。

著者プロフィール

  • 井川洋一

    井川洋一 (いがわ・よういち)

    スポーツライター、編集者、翻訳者、コーディネーター。学生時代にニューヨークで写真を学び、現地の情報誌でキャリアを歩み始める。帰国後、『サッカーダイジェスト』で記者兼編集者を務める間に英『PA Sport』通信から誘われ、香港へ転職。『UEFA.com日本語版』の編集責任者を7年間務めた。欧州や南米、アフリカなど世界中に幅広いネットワークを持ち、現在は様々なメディアに寄稿する。1978年、福岡県生まれ。

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