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町田ゼルビアの「ロングスロー」は悪ではない 問題はやられるJリーグの守備と全体のレベル

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

 FC町田ゼルビアが初のJ1ながら意気軒昂に首位を走っている。

 その代名詞のひとつになっているのが、スローインだろう。ゴール前にロングスローを投げ入れ、そこで混乱を生み出し、相手にストレスを与えながら、時にゴールを仕留める。「手を使わない」がフィールドプレーヤーの原則であるだけに、「邪道」「卑怯」のように言われることもある。しかし、それはリスタートのひとつであって立派な戦術だ。

 青森山田高校を率い、スローイン戦術で旋風を巻き起こしてきた黒田剛監督が、Jリーグに「一石を投じた」と言えるのではないか――。

ロングスローで再三チャンスをつくってきた林幸多郎(FC町田ゼルビア)photo by Naoki Morita/AFLO SPORTロングスローで再三チャンスをつくってきた林幸多郎(FC町田ゼルビア)photo by Naoki Morita/AFLO SPORTこの記事に関連する写真を見る スローインは、工夫によって優位に立つことができる。たとえばクイックでリスタートすることで、オフサイドにかからずに敵陣の奥深くまで侵入することができる。あるいは、たとえ全員がマークされていても、スローワーは瞬間的にフリーになるため、戻したボールを受け、そこから展開することができる。また、町田が得意とするように、ゴール前にロングスローを入れることで、フリーキック、もしくはコーナーキックに近い現象を起こせるかもしれない。

 スローインは起点になるプレーであり、侮ってはいけない。だが......。

 欧州のトップレベルにおいて、スローインで戴冠した、というような例はない。その過程でスローインがひとつの要素になっていたとしても、あくまで一部にすぎない。

 たとえば世界に冠たるレアル・マドリードには、いくつもの得点パターンがある。ヴィニシウス・ジュニオールの突破力、ロドリゴのゴールセンス、フェデリコ・バルベルデのパワー、そしてジュード・ベリンガムの帝王のような存在感。それぞれが高い強度のなか、"止める、蹴る"の質が出色で、怒涛の勢いで攻撃を組み合わせ、ゴールに迫る。

 そしてそれが、欧州でロングスローが主要武器にならない、単純な理由だ。

 ロングスローは、どれだけFKやCKに近くても、同等にはならない。トップレベルのキッカーのクロスと比べたら、数段、劣る。そこでスローインを直接入れるよりも、しっかりと味方につなげた後、ドリブルで切り込んだり、コンビネーションで崩したり、あるいは出力最大のミドルシュートを打ち込んだり、精度の高いプレーを選択することになる。

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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