町田ゼルビアの「ロングスロー」は悪ではない 問題はやられるJリーグの守備と全体のレベル (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

【スローインは一種のギャンブル】

 翻って言えば、町田のロングスローは、Jリーグにおける守備の緩さをうまくついている。

 Jリーグのディフェンスは、マンマーキングにせよ、ゾーンにせよ、欧州のトップクラスと比べると寄せが甘い。そのため、スローインの回数をこなすことで、アクシデントを起こす確率を上げられる。Jリーグ全体の傾向としてクロスの回数が少なく、質も低いので、ディフェンスが放り込みの対応に不慣れなのも重なっているか。

 ロングスローは、瞬間的にゴール前で五分五分の状況を作り出せる。どちらのボールでもない。クリアされたとしても、シュートを打ったとしても、あるいはどちらでもなくこぼれるとしても、フィフティフィフティの確率を持ち込み、ふたつにひとつで挑める。

 町田は、自らがボールをつないで関係性を作って攻め込むよりも、最短距離を狙ったパスを打ち込む。たとえそれが失敗しても、敵陣でプレーを起動させている。そうやってリスクを減らし、再びリターンを狙う。そこの確率に迫った戦い方を信条とし、いわばギャンブル的な要素にかけており、スローインはその象徴と言えるだろう。

 パスサッカー主体のバルセロナは、その手の確率論を持ち込まない。「自分たちがボールを持って能動的に崩す」というコンセプトで、相手にボールを預ける可能性があるロングスローなど選択肢から外される。ジョゼップ・グアルディオラ監督が率いていた時代は、CKさえ蹴り込まず、ショートパスでつないでからあらためて崩していたほどだ。

 町田はその"運"をつかむため、強度、粘度のあるファイトをするチームと言えるだろう。相手を嫌がらせ、わずかでも優位に立つ。その点で練度が高く、どちらに転ぶかわからないプレーに身を投じながら、能動性を捨てる"縛り"によって、プレーの強度を最大限まで高めている。

 今のところ、J1で戦ってきたチームはことごとく町田の戦いに及び腰になって、次々に敗北を重ねている。それは言い換えれば、「乗り越えるだけの技術、スピード、コンビネーションが足りない」ということだろう。それがJリーグの現状だ。

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