冨安健洋の「底が割れていない」可能性 欧州で広げたプレーの幅 (3ページ目)
【新たなポジションでの可能性も】
欧州に行っていなかったら、おそらく現在の冨安にはなっていなかっただろう。大型CB、あるいは対人強度の強い大型センターハーフでいたはずだ。
低身長国・日本の指導者には、187センチの冨安をSBで使う発想は湧かなかったに違いない。プレーの幅、多機能性は、日本にいたら開花していなかったと見る。日本代表でもひたすらCBとして使おうとする森保監督を見ればわかりやすい。多機能性を追究する余裕が持てないのだ。
しかし世界で戦おうとした時、W杯でベスト8以上をコンスタントに狙おうとした時、それでは満足に戦えない。
17歳でJリーグデビューした選手と言えば、いかにも将来性は有望のように映る。だが、途中で失速する選手、伸び悩む選手が多いことも事実である。U-17日本代表に選ばれた選手のうち、A代表まで昇格する選手は何人もいない。冨安にも当初、そうした疑念を少なからず抱いたものだ。だがその心配は杞憂に終わった。187センチが特別、長身扱いされない欧州に渡ったことで、SB、サイドアタッカーとしての魅力を開花させた。
ウイングも務まるだろう。試合終盤、三笘薫に代えて左ウイングに配置すれば、それは立派な守備固めになる。CFや1トップ下としての適性も探りたい。ボールを収める力はあるので、いけるのではないか。
筋肉系の故障を頻繁に発生させることが冨安の問題だとすれば、いわゆるディフェンダーよりアタッカーのほうがリスクは少ないだろう。能動的な動きが増える分だけ、リスクは減るとの見方もできる。
サッカー選手としてまだ底が割れていない25歳。この先もいい監督に巡り会ってほしいものである。30歳になる5年後、どんな選手になっているのか、想像することができない選手。楽しみである。
著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
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