冨安健洋の「底が割れていない」可能性 欧州で広げたプレーの幅 (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【CBから左右両SBへ幅を広げた選手は少ない】

 CBとしての先発出場が2試合だったのに対し、右SBでのスタメン出場は13試合。翌2020-21シーズンになると、右SB(13試合)とCB(16試合)に、左SB(2試合)での出場が加わることになった。

 かつてSBのポジションは、右なら右に限られていた。右も左もこなす選手はゼロに近かった。2000年代中盤になってようやく、フィリップ・ラーム(ドイツ代表)、ジャンルカ・ザンブロッタ(イタリア代表)、ベレッチ(ブラジル代表)らが現れたが、ついその5年ほど前まで、彼らのような選手はかなり稀な存在だった。

 それに加えてCB、守備的MFをこなす選手はもっと希少だ。もともと中央を務めていた選手が、左右両SBに幅を広げたケースはザラにない。

 その多機能性は、2021-22シーズンに移籍したアーセナルでも重宝がられている。守備的MFでプレーする機会こそ減ったが、右SB、左SB、CBの3ポジションをほぼ均等にこなすようになった。

 SBとして、187センチという長身を感じさせない軽快な動きをする。なによりステップにドタドタ感がない。一般的なCBがサイドに出てプレーすれば、かなり危なっかしく見えるものだ。SBのような細かなステップを切ることができる大型CBは少ない。「CBをサイドにおびき出したらチャンス」と言われる所以だ。

 冨安も、日本人の目には真ん中にいたほうがいい選手に見える。それが実際はそうでないところに、冨安の魅力がある。SBらしいSBとしてプレーできるのだ。繰り返すが、それは吉田にはない魅力になる。サイドをドリブルで軽やかに持ち上がる吉田の姿を想像することはできない。

 それに対して冨安は、ボールの持ち方、置きどころもいいので、進行方向がわかりにくい。間隙を突いてスルスルと前進するドリブルがある。鋭い切り返しも備える。左でも右でもサイドアタッカー然とプレーできるのだ。さらにその他のポジションも務まりそうな、底が割れていない可能性を感じる。

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