Jリーグ昇格請負人が悲痛な叫び「移籍の速さについていけない」 J2・J3「沼」の正体をギラヴァンツ北九州・小林伸二前監督が明かす (2ページ目)

  • 吉崎エイジーニョ●取材・文 text by Yoshizaki Eijinho

【J3最下位からのJ2昇格】

 小林とギラヴァンツの縁は、2018年シーズン後に始まった。

 この年、ギラヴァンツはJ3で最下位に終わっていた。2016年にまさかのJ3降格を喫し、再昇格は早いほうがいいに決まっているが、2017、2018年と2年連続でまともに昇格争いに関われなかった。なかでも2018年はフィジカルコーチを置かない体制を採ったこともあり、「相手ゴール前に選手が入り込めない」という有様だった。

 一方の小林は2017年を最後に清水エスパルスの監督を退いた後、解説者として1年間、外からサッカーを見ていた。自身には「九州で仕事がしたい」という希望もあったなかで、「北九州が苦しんでいる」という話を聞いた。当時のクラブ社長と会い、話がまとまっていった。

「状況が厳しいというので、僕はやっぱり上げる(昇格させる)んだったら(強化責任者と監督の)兼任のほうが絶対いいと思ったんですね。要は現場の意見をそのまま社長に伝えながら早く上げていったほうがいい。本来は監督専任が正解だと思うけど、ギラヴァンツの状況を聞くとそちらのほうが良さそうだと感じたんです」

 自ら選択した監督と強化責任者の兼任。小林は早速、「できることはすべてやる」といった考えから、スポンサー周りもとにかく挨拶して回った。強化費は多いに越したことはない。その現場で、地元企業から幾度か聞く声を通じて、チームのある実情を知る。

「最後にいつも点を獲られて負けるか、足が攣ってますよね」

 小林はこれを聞くに「大変なことだ」と思った。だったら、やっぱり足が止まらないサッカーをやるしかない。でなくては地元で受け入れられない。もう引いたままで守れないとか、最後に動き負ける、とか、相手より多く足が攣っている姿は見せられないと。

 かくして2019年のチームは新しく9人を加え、「フィジカルから鍛え直す」「攻撃的なスタイル」を標榜してキャンプからチームづくりを進めた。キャンプ序盤の徹底的なフィジカルトレーニング期間、1日2部練習。シーズンに入っても週中のウェイトトレーニングを積極的に行なっていった。

 すると、守備時のプレスがハマり始め、多くの相手が当惑した。

 小林の考えも変わった。開幕前は「1年目に6位あたりにつけておけば、一気に昇格も目指せるし、2年目にはJ2昇格の可能性がより高まる」と考えていた。シーズンの折り返しあたりから選手にはこう話していた。

「昇格できるから」

 その他、4バックのスライド戦術や個々のポジショニングといった基本的指導も功を奏し、就任1年目での昇格を決めた。Jリーグ30余年の歴史のなかで、史上初の「前年最下位チームが優勝」という偉業だった。

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