「街から高校生がいなくなる」少子化の影響を受ける地方都市 地元の高校サッカーチームが取り組む対策とは (2ページ目)

  • 森田将義●取材・文 text by Morita Masayoshi
  • photo by Morita Masayoshi

【下部組織を作り高校を強豪に】

 地元との結びつきがより深い、公立高校の取り組みとして注目されているのが、静岡県富士市にある富士市立高校だ。

静岡県内の強豪校の地位を確立しつつある富士市立高校静岡県内の強豪校の地位を確立しつつある富士市立高校この記事に関連する写真を見る 富士市は約24万人の人口がいる静岡県第3の都市だが、製紙の街として栄えた工場地帯である。「静岡市に向かっていくほどワクワクする」とサッカー部の杉山秀幸監督が苦笑いするとおり、都会とは言い難い街のなかでも、富士市立高校は富士山の麓に近い場所にある学校だ。

 これまでも富士市には元日本代表の川口能活(清水商業高校<現清水桜が丘高校>出身。元横浜F・マリノスほか)、赤星貴文(藤枝東高校出身。元浦和レッズほか)など有力選手はいたが、中学や高校に上がるタイミングでサッカーが盛んな静岡市や藤枝市へと進んでいた。

 そうした現状を危惧した杉山監督は「地元でプレーできる環境を作りたい。それを応援したり、関わってくれる人の生き甲斐にしてほしい」と2011年に学校が吉原商業高校から、現校名へと改名したタイミングで中学生年代の下部組織「FC Fuji」を立ち上げた。

「短期で何かを成し遂げたら一瞬で崩れる。急いで勝とうとしたら、いい選手どれだけ集められるかになるけど、それは嫌だから選手にぜひ来てくださいとは一切言わない。選抜に選ばれている選手とか、人が選んだ肩書で見てしまいがちだけど、僕らは小学校、中学校の時によかった選手ではなく、自前でいい選手を育てたかった」

 杉山監督の言葉どおり、FC Fujiも富士市立もスタンスは一貫しており、技術、判断を磨くことで選手を育んでいく。FC Fujiや富士市立のテクニカルなサッカーに魅力を感じて子どもたちが少しずつ地元に残り始めると、2019年には選手権予選決勝まで進出。プリンスリーグ東海に定着した現在はスタメンの大半をFC Fuji出身選手が占めるほか、静岡市や県外から入学する選手も増え、部員数は100人を超えている。

 今年は、OBの松澤海斗が名古屋経済大学からV・ファーレン長崎への加入が決まり、富士市立高校出身初のJリーガーとなった。熱意と工夫次第で、公立高校であってもスポーツを通じて高校と街を活性化できる好例と言えるだろう。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る