サンフレッチェ広島の躍進を先導したミヒャエル・スキッベ監督。選手たちがノリに乗ったその手法を森﨑浩司が解説 (3ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • photo by Getty Images

選手に対するフェアな評価

――選手の評価や起用の部分で、監督から感じたことはありますか?

 アウェーの柏レイソル戦(第25節)で逆転勝ちしたんですけど、荒木隼人がオウンゴールをしたんですよ。それでも試合後の円陣で荒木に「あれはナイスゴールだった」と、冗談を交えながらいじったそうです。監督が言ってくれるので場が和みますよね。

 そういったミスに対しては評価の対象にはならず、試合全体を見て彼のプレーを正当に評価していました。

 逆に同じ試合で藤井智也が決勝点を決めたんですけど、次の試合はベンチ外でした。僕が見ていて感じたのは守備面とポジショニング、それからシンプルにミスが多かったことですね。

 スキッベさんは、自分が求めているクオリティに対してはドライな部分があって、選手のことをすごくよく見てフェアな評価をします。名前や年齢ではないんです。青山敏弘は広島のレジェンドですけど、彼がベンチ外になった試合が多いのは象徴的で、健全な競争を促しています。

――試合の中での修正力が高く、途中交代の選手が活躍する試合も多かったと思います。そこはどう感じていますか?

 決まったパターンの交代がないんです。監督によっては時間帯によって決まっていたり、点が欲しい時、守る時で決まっていたり、パターンが固定されることは珍しくない。ただ、それは相手にとっては分析しやすいですよね。

 でもスキッベさんは、常に試合の状況をフラットに見て的確な采配をしていて、いつも驚きを与えてくれます。

――第12節の鹿島アントラーズ戦で、2ボランチだったのを1ボランチにして、2トップの形にしたことがありました。

 あれは本当に驚きました。練習もほとんどしていないし、前日ですらやっていなかったシステムに変更しました。野津田岳人は1アンカーをやるのが初めてだったと思います。なおかつ2トップ、2シャドーというのを、どのようにして考えついたのかは、スキッベさんの頭の中を探らないとわからないですね。

 鹿島という強豪を相手に1アンカーは、普通であれば守備の不安を感じるものですけど、それも超越して押し込める自信があったんでしょうね。相手のプレッシャーに負けずに押し込んで、よりアグレッシブに戦うための形が見事にハマって3-0の完勝です。チームにとって大きな自信になった試合だったと思います。

――6月から7月のかなりタイトな日程となった9連戦や、8月から9月に8連勝した時でも広島はほとんどターンオーバーをせず、主力をほぼ固定して乗りきりました。選手層の面もあったかもしれませんが、これだけ選手を固定し続けたことについてはどう思いますか?

 日本の夏場で、ターンオーバーをしない監督は初めて見ました。体力的にかなり厳しいと思ったんですけど、選手たちは普通に走れていました。メディアの方も夏場に選手を入れ替えるのは当たり前と染みついているので、スキッベさんに「ターンオーバーはしないのか」と聞きますよね。

 その時「選手はこの暑いなかでトレーニングしているのだから、みんな慣れていないとおかしい」と。スキッベさんにとって「暑い」というのは言い訳でしかない。暑いと考えれば考えるほど辛くなるし、慣れたほうがいいだろうと。トレーニング時間を極端に短くすることもなかったですしね。

 またメンバーを変えなくても勝てていたので、選手から不満も出ませんでした。勝っていて調子がよければ、そのまま起用してもらいたいというのが選手の心理だし、メディアの方には毎回「コンディションは問題ない」と言っていました。

 夏場でリーグでは優勝争いできるくらい順位が上がって、天皇杯もルヴァンカップも勝ち続けたので、自信と勢いがどんどんついていったと感じました。

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