元レフェリー・家本政明が挙げた印象深い元Jリーガー5人。「人格者」「ずるいプレーなし」「視野から消える」名手たち (5ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • photo by Getty Images

副審泣かせの緻密な動き

佐藤寿人(FW/元サンフレッチェ広島など)

 佐藤寿人選手は、点を取るための動きがとにかく緻密でした。

 注意して見ていても細かな動き直しや調整を繰り返して、DFとの駆け引きは常にしていました。DFラインの本当にギリギリを縫って出ていくので、レフェリーもオフサイドかどうかの判断が難しく、"副審泣かせ"とはよく言われていましたね。

 サンフレッチェ広島時代に長くキャプテンを任されていたので、チームを代表して彼とコミュニケーションを取る機会は多かったです。その時は変に興奮することもなく、レフェリングに対してやり取りができる選手でした。

 彼に話を聞いた時に面白かったのが、「ゴールまで逆算をする」と言っていたことです。「この展開でここがゴールの終着とするならば、自分はどうすれば点を取れる場所に行けるんだろう」と、その選択肢が常に1つ、2つあるみたいでした。

 その選択肢のためにどうやってDFと駆け引きをして、有利なポジションに入っていけるかとプレーしていたんですね。

 そうした逆算の上で彼の決めるゴールは、美しいものが多かった。綺麗に抜け出したり、点で合わせたり、鮮やかなゴールが多い印象です。

 体は大きいほうではないので、どれだけDFとコンタクトせずに抜け出し、どれだけゴール前でフリーの状態で、点で合わせるか。そこにこだわっていた気がします。だからゴール前で彼がDFと接触している記憶はほぼありません。

 それから彼のポジショニング、駆け引きのうまさで言うと、レフェリングをしている時にピッチ全体を見ながら佐藤選手がどこにいるかを間接視野で確認したりするんですけど、彼は消えるんですよね。

 それで突然現れて点を取ってしまう。DFの視界から消えるのはストライカーでよく聞く話ですが、レフェリーの視野からも消えるという選手はほかにいなかったかもしれないですね。

 点を取ることに関して本当にロジカルでしたので、体の大きくない日本人がお手本にすべきストライカーだったと思います。点取り屋という意味では彼は群を抜いた存在でした。

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