横浜F・マリノスを救った元欧州組。そのドリブルはサポーターを勇気づける

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 木鋪虎雄●撮影 photo by Kishuku Torao

 横浜F・マリノスにとって、3月2日に行なわれたヴィッセル神戸戦は、ホーム戦ながら鬼門だった。3日前の日曜日(2月27日)に行なわれた柏レイソル戦で、センターバックの2人(畠中槙之輔、岩田智輝)が退場。攻撃陣を支えるマルコス・ジュニオールも負傷退場の憂き目に遭うなど、選手のやりくりがとても難しい状況にあった。中2日の強行軍で迎える神戸戦。ケヴィン・マスカット監督がどんなメンバーをスタメンに送り込むか。注目された。

 センターバックのエドゥアルド、1トップのアンデルソン・ロペス、そしてGK高丘陽平。柏戦から続けて先発出場した選手は、この3人のみである。5人の初先発を含む、スタメン8人を入れ替えて臨む4-2-3-1の布陣を見た時、2-0というこの日の最終スコアを予想することはとてもできなかった。

ヴィッセル神戸戦で2ゴールを決めた西村拓真(横浜F・マリノス)ヴィッセル神戸戦で2ゴールを決めた西村拓真(横浜F・マリノス)この記事に関連する写真を見る 予想を超えたこの勝利に最も貢献した選手は誰か。フル出場を果たした18歳の守備的MF山根陸は、可能性を感じさせる安定したプレーを見せた。仲川輝人も、相変わらず俊敏なプレーで存在感を発揮した。しかし、試合の流れをたぐり寄せたのは右ウイング、宮市亮だった。

 ペースは立ち上がりから神戸ペースで推移していた。前半14分、小田裕太郎の折り返しをゴール前で武藤嘉紀がフリーで受けながら、高丘の好セーブにあって外してしまったこともあるが、以降、横浜FMペースに転じた理由は、17分、19分、22分と立て続けに宮市が自慢のスピードで、右サイドを威嚇したことにある。

 観衆は現在、声を出しての応援を禁じられている。しかし、いけないことだとわかっていても、本能的に声が漏れてしまう瞬間がある。感激、感動した瞬間、少なくとも感嘆の声は音になって漏れる。宮市がボールを前に運び、ギアを上げた瞬間がそうだった。スタンドにオーッという声がこだました。

 2歩目でスーッと浮くようにトップスピードに乗るそのドリブル。スピードの種類にはさまざまなものある。仲川的なスピード、伊東純也的なスピード、前田大然的なスピード、古橋亨梧的なスピード等々だが、宮市が発露させたスピード感もまた独特だった。神戸の勢いを止めるに十分なインパクトを備えていた。

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