鹿島アントラーズ・小泉社長が考える地域貢献とIT施策のスタジアム活用法。「大きなラボとして、近未来を見せることができる」 (4ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • photo by Kyodo News


 カシマスタジアムが建設された30年前から比べて、デジタルなど多くの技術革新が起きた今、気候変動をはじめとした、さまざまな社会の課題に応じた持続可能なスタジアムを作るべきであることにも納得がいく。

 11月7日、第35節浦和レッズ戦を前に「メルカリスペシャルマッチ 〜All for One すべては勝利のために〜」と題した、メルカリと鹿島アントラーズとが手を組んだ施策のいくつかを小泉は紹介した。その質疑応答でも話題はやはり新スタジアムについてだった。テクノロジーが地域の問題解決の武器になると話したうえで、「スタジアムを大きなラボとして、近未来を見せることができる。例えば過去の事例では5Gの導入や顔認証などです。同時に新スタジアムはSDGsの17個の観点に配慮し、スタジアムを進化させたい」と話した。「ワールドカップの開幕戦や決勝戦が開催できる8万人のスタジアムを作るか?」との問いには「作りません」と即答した。

「箱を作ればいいということではなく、ファンクション(機能や効能、役割)を重視する。大切なのはプレーしやすい? 見やすいか? 感動できるか? ということです」と。

 しかし、すでに述べたように、スタジアムが持つポテンシャルは非常に大きい。世界中にはホテルや運動施設、商業施設、映画館、老人ホームなどを併設するスタジアムもある。鹿嶋市を中心とした鹿行地域を魅力あるものにする一大拠点、サッカーに興味のない人にとっても重要なインフラとなるべきだ。建物だけを作り、そこに魂を入れず、人々の声や熱量が感じられない公共施設にしてはならない。

 そんな小泉の言葉を聞きながら、立場の異なるさまざまな人たちとミーティングをしている彼の姿がイメージできた。

 そこで、会見後にそのことについて聞いた。

「いろいろな人の声を聞いていきたいですね。この新スタジアム構想に関わる人が多いほうがいいと思うんです。そのほうが絶対にスタジアムに愛情を持ってもらえるから」と応えてくれた。

 どんなふうに誰に話を聞くのかも含めて、すべてが白紙状態だが、できあがったスタジアムに名前を刻む以外に、関われる機会があれば、それは地域住民やサポーター(他クラブのサポーターも含む)にとって、特別な場所になるに違いない。

 建設計画の立案、建設、完成、そして......熱気に帯びた新スタジアム建設という祭りが始まってほしい。

 時代が変わろうとする真っ只中で、小泉はデジタルとスポーツの関係をどう考えているのだろうか。

「友人が死んだことが、私の死生観に強く影響を与えました。どうせ生きるなら、世の中に残るものを作りたい。人々の暮らしが豊かになるものを作っていきたいと。昔からインターネットに強く惹かれたのは、個人が力を手にし、人らしく生きるうえで、重要なツールだからです。今後、テクノロジーが発展することで週休3日や4日という企業が出てくるかもしれません。そこで、余暇を楽しめず、戸惑う人も少なくないと思うんです。そういうときこそエンターテインメントの役割が大きくなる。それはスポーツも同じです。僕自身がスポーツ好きというのもありますが、スポーツが人々の生活や心を豊かにできると思っています」

 鹿島アントラーズの哲学を知り尽くす小泉の登場によって、クラブの未来も変わっていくのかもしれない。

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