大久保嘉人を変えた監督との運命的な出会い。ミーティングで「紙に書いておこうと思ったほど。そんなこと今までなかった」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by KYODO

 11月19日、大久保嘉人(セレッソ大阪、39歳)がとうとう現役引退を発表した。

「大久保嘉人のプレースタイルが、いろいろなチームの選手、ファン・サポーターの皆様にご迷惑をおかけしたことを申し訳なく思っています」

 声明には、そんな一文が盛り込まれていた。

 激しすぎるプレースタイルには賛否が分かれた。敵に対しては、足を踏みつけてでも優位を取ろうとし、なりふり構わなかった。しばしば味方をも戸惑わせた。練習中、怒ったようにボールを要求する姿に、弱気な選手は叱責を受け続けるような気分になっただろう。

 敵チームのサポーターにとっては、言うまでもなく悪役だった。アンチに対し、彼は謝罪をした。

 しかし、翌日の川崎フロンターレ戦で元チームメイトに労われ、胴上げされる姿を見ていると、そんな謝罪などは不要に思えるのだった。

川崎フロンターレ戦後、川崎の選手たちと写真に収まる大久保嘉人(セレッソ大阪)川崎フロンターレ戦後、川崎の選手たちと写真に収まる大久保嘉人(セレッソ大阪)この記事に関連する写真を見る「彼は100%純粋なストライカー。それしかない」

 クラウディオ・ロペスなど数多くのストライカーを開眼させた名将エクトル・クーペルはマジョルカ時代、大久保をそう評していた。

 ゴールを奪う。それはストライカーだけが持つ直感に近く、とれるか、とれないか、しかない。クーペルだけでなく、ジーコ、フェリックス・マガト、アルベルト・ザッケローニなど海外の名将が、一度はその才能に恵まれた大久保を中心にチームを作ろうとした。

 22歳で飛び込んだスペイン挑戦、大久保はデビュー戦で当時の強豪デポルティーボ・デ・ラ・コルーニャを相手にいきなりゴールを挙げ、度肝を抜いた。敵の悪辣なタックルが膝に入り、骨まで見えていたにもかかわらず、ホチキスで皮だけ止めてプレーを続けていた。ゴールを生む才能は強烈で、本人もそれにともなう激情をもて余すほどだった。

「日本人はこんな失礼だったのか」

 敗れた腹いせか、デポルの選手たちは大久保の態度に顔をしかめた。

 悪童ぶりは止まらない。レアル・マドリード戦ではデイビッド・ベッカムを罵り、強い反発を受けた。バルセロナ戦では、闘将カルレス・プジョルに股抜きをかまし、怒ったプジョルからカニバサミのようなタックルで潰されている。

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