オシムと出会って人生が変わった。坂本將貴が大切にする2つの助言 (3ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi
  • photo by 新井賢一/AFLO

 言った本人は覚えていなくても、言われた側の記憶にはいつまでも残っている、ということがある。

「現役の時、オシムさんに何気なく『お前、どうせ監督になるんだろう?』って、ホワイトボードを渡されたことがあったんです。オシムさんにとっては大して意味がないことで、覚えてないと思うんですけど、僕にとってそれはけっこう大きなことでした」

 現役引退後、ジェフの普及・育成コーチやU-14、U-15監督を歴任した坂本は2020年、トップチームのコーチを務めた。指導者となり、現役時代にオシムが話していたことを、あらためて身に沁みて感じることが何度もあったという。

「オシムさんはよく、ことわざを持ち出して話してくれたんですけど、そのひとつに『馬を水飲み場に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない』というのがあって。指導者は環境を整えることはできるけど、やるかどうかは選手次第だぞ、ということ。子どもたちの指導をしていた頃、こういうことだったんだなって、思い出すことがありましたね」

 オシムは点を取った選手を褒める前に、走って囮になった選手に対して、「この得点の9割は彼の得点だ」と称えることがよくあった。そうやって評価してくれるから、坂本たち"オシムチルドレン"は犠牲心を持って、常にチームのために走ることができた。

 そんな声かけができる指導者になりたい、と坂本は思っているが、指導者としてオシムのマネをするつもりはない。

「オシムさんもよく『人のマネをするな』と言っていましたし、お手本にしようとしても、なかなかできることではない。それに、これもオシムさんが言っていたことですけど、サッカーは進化し続けるもの。今の時代はデータや科学的な検証があの頃と比べてずいぶん発達しました。GPSとか、ハートレートとか、いろいろなものがあるので、昔とはちょっと違うかなと。

 オシムさんがジェフの監督だった当時、練習内容は毎日違いましたけど、アカデミーの子どもたちには反復練習をさせないと身につかないこともあると感じました。いつまでも、あの頃のオシムさんを追いかけ続けるのはよくない。それは指導者になって考えさせられていることですね」

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