中村憲剛と小林悠、「兄と弟」の11年。話さずとも感覚を共有できる関係 (3ページ目)
「そこからは自分のリミッターも外れて、逆に憲剛さんには強く要求するようになりました。憲剛さんなら出せるでしょ、出せたでしょって(笑)。むしろ、ほかの選手以上に要求するようになったと思います」
今やJリーグでも屈指のストライカーとなった小林だが、秀でているのはシュートだけではない。むしろ、狭いスペースでのターンや相手DFとの駆け引き、決める前の動きにうまさも怖さも集約されている。
「憲剛さんから言われたのは、点を取るところ以外の部分なんですよね。点を取るところだけは認めてくれていて、むしろボールの収め方、ターンの仕方、ポジショニングと、点を取る以外のプレーについて言われてきました。実際に自分でも点を取るところ以外は何もなかったですからね。だから憲剛さんにも、『ジュニーニョの動きをよく見ておけ』って言われてました」
川崎の点取り屋として活躍したジュニーニョ(2003-11年まで在籍)からも、「オレの動きを見ていろ」との薫陶を受けた小林だが、同様のことを中村からも言われていた。
「チームのためにどこにいるべきか」
川崎に"思考"のストライカーが誕生するきっかけでもあった。
「それまでは試合中に憲剛さんと戦術的な会話はできなかったんですけど、考えるようになってからは、どこにいてほしいとか、どこを狙おうといった話ができるようになった。次第に"阿吽の呼吸"じゃないですけど、憲剛さんが何を考えているか、話さずともわかるようになってきたんです」
家族や兄弟のように、話さずとも感覚を共有できる関係は、ホットラインとなり、川崎にタイトルをもたらした。
中村からキャプテンの座を引き継ぎ、J1初優勝したその2017年。小林はシーズン当初、キャプテンの重圧に苦しんでいた。チームのことを思うあまり、ストライカーの自分とキャプテンである自分の折り合いがつかなくなっていたのだ。
その苦悩と葛藤がわかったから、中村に話を振ったことがあった。その時、中村はこう話していた。
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