中村憲剛と小林悠、「兄と弟」の11年。話さずとも感覚を共有できる関係
チームメイトが語る中村憲剛
(4)小林悠
中村憲剛が引退を発表し、現役最後の瞬間が迫ってきた。スポルティーバでは、川崎フロンターレのチームメイトたちにインタビュー。常に先頭に立ってチームを引っ張ってきた中村との思い出や、彼に対する思いを語ってもらった。
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同じユニフォームに袖を通して11年になる。今では家族ぐるみの付き合いをしているように、ただのチームメイトという枠は越えている。
中村憲剛(写真左)を兄のように慕ってプレーしてきたという小林悠(同右)「何でも言える関係というか。感覚としては家族に近いかもしれない。言ってしまえば、兄みたいな感じです」
小林悠にとって、中村憲剛とはそんな存在だ。だから、あの日、部屋に入ると、いつもと違うことはすぐにわかった。
「呼ばれて部屋に入ったら、憲剛さんが座っていて。それまではまったく考えていなかったんですけど、部屋の空気で察しました」
恐る恐る向いに座ると、胸騒ぎを振り払うかのように言葉を発した。
「なんすか......」
「オレ、今シーズンで引退するわ」
抵抗するよりも先に、中村から事情を説明された。聞き終えると、説得できる状況にないのは理解できた。それでもなお、こぼれた言葉は、隠すことのない小林の本心だった。
「もっと、やりたいっすよ」
涙ぐみながら、言葉を絞り出した。
「でも、気持ちは変わらないんですよね」
中村は静かにうなずくと「ずっと決めていたことだから」と返事をした。そこからは小林が感謝を述べる時間になった。
「家族でお世話になってきたので、そのことに対する感謝を最初に伝えました。妻や子どもたちも一緒に、毎月のように集まって、ハロウィンやクリスマスをお祝いしていたので」
次に伝えたのは、ひとりのサッカー選手としての感謝だった。
「自分が100ゴールを達成した時に、記念のDVDを制作してもらったことがあったんです。ゴールシーンを見返したら、自分のプレーに満足できるかなと思っていたんですけど、見終わったら憲剛さんからのアシストがあまりにも多くて。逆に憲剛さんの偉大さが身に染みたんです。泣きながら、それを憲剛さんにも言いました。今思うと、恥ずかしいくらい素直に気持ちを伝えたように思います」
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