2020.12.21

中村憲剛と小林悠、「兄と弟」の11年。話さずとも感覚を共有できる関係

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

チームメイトが語る中村憲剛
(4)小林悠

中村憲剛が引退を発表し、現役最後の瞬間が迫ってきた。スポルティーバでは、川崎フロンターレのチームメイトたちにインタビュー。常に先頭に立ってチームを引っ張ってきた中村との思い出や、彼に対する思いを語ってもらった。

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 同じユニフォームに袖を通して11年になる。今では家族ぐるみの付き合いをしているように、ただのチームメイトという枠は越えている。

中村憲剛(写真左)を兄のように慕ってプレーしてきたという小林悠(同右)「何でも言える関係というか。感覚としては家族に近いかもしれない。言ってしまえば、兄みたいな感じです」

 小林悠にとって、中村憲剛とはそんな存在だ。だから、あの日、部屋に入ると、いつもと違うことはすぐにわかった。

「呼ばれて部屋に入ったら、憲剛さんが座っていて。それまではまったく考えていなかったんですけど、部屋の空気で察しました」

 恐る恐る向いに座ると、胸騒ぎを振り払うかのように言葉を発した。

「なんすか......」

「オレ、今シーズンで引退するわ」

 抵抗するよりも先に、中村から事情を説明された。聞き終えると、説得できる状況にないのは理解できた。それでもなお、こぼれた言葉は、隠すことのない小林の本心だった。

「もっと、やりたいっすよ」

 涙ぐみながら、言葉を絞り出した。

「でも、気持ちは変わらないんですよね」

 中村は静かにうなずくと「ずっと決めていたことだから」と返事をした。そこからは小林が感謝を述べる時間になった。

「家族でお世話になってきたので、そのことに対する感謝を最初に伝えました。妻や子どもたちも一緒に、毎月のように集まって、ハロウィンやクリスマスをお祝いしていたので」

 次に伝えたのは、ひとりのサッカー選手としての感謝だった。

「自分が100ゴールを達成した時に、記念のDVDを制作してもらったことがあったんです。ゴールシーンを見返したら、自分のプレーに満足できるかなと思っていたんですけど、見終わったら憲剛さんからのアシストがあまりにも多くて。逆に憲剛さんの偉大さが身に染みたんです。泣きながら、それを憲剛さんにも言いました。今思うと、恥ずかしいくらい素直に気持ちを伝えたように思います」