あらためて実感するイニエスタのすごさ。「後の先をとる」感覚と得点力 (3ページ目)
いずれにしても、相手のパンチを見切ってぎりぎりでかわすボクサーのように、イニエスタは「後の先」をとる。後出しジャンケンなので圧倒的に強い。
軟体動物のように自分の体を操れる能力も凄いが、それ以前に相手を操る能力が特別な選手である。
温厚な風貌の内に勝利への激情を秘めている
小宮良之氏(スポーツライター)
「アンドレス(・イニエスタ)が、どれほど負けを憎んでいるか。負けたあとの彼は、(神戸では)誰よりも憤っている。温厚そうな風貌をしているから、あまりわからないかもしれないがね」
昨シーズン、ヴィッセル神戸を率いたファン・マヌエル・リージョ監督は、そう明かしていた。
現在36歳のアンドレス・イニエスタはかつて、バルセロナでも、スペイン代表でも数知れない栄光を勝ち取っている。彼は負けることに慣れていない。勝者のメンタリティによって成功を収めたのか、成功を収めたために勝者のメンタリティを手にしたのか――。
ゲームを制し、勝者になることが彼のサッカー人生だった。
イニエスタは、ボールプレーヤーとして圧倒的に優れている。それは、素人にもわかるだろう。たとえ力づくで挑みかかって来られても、強度を利用するようにひらりとかわせる。そして視界を開け、俯瞰したビジョンから電撃的なパスを打ち込む。分厚い守りも、コンビネーションを使って抜け出す。その手並みは、まるで幻術使いだ。
「多くの相手選手が自分を囲めば、それだけ周りの味方は空く。それだけだよ」
全盛期、ピッチで6、7人に囲まれたプレー写真が話題になった時、イニエスタはこともなげにプレーの極意を語っている。空間、時間の感覚が、ほかの選手とは一線を画しているのだろう。卓抜とした視野から正しいプレーを選び、それを実践するだけのスキルだ。
「アンドレスは、ストライカーである自分のよさを引き出してくれる。欲しいと思った場所に、適切なタイミングでパスが来る。おかげで、簡単にゴールできた。周りを光らせる選手だ」(サミュエル・エトー)
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